2024年11月21日(木)

販売店4社が語る
時代の変化を乗り切る戦略
第3部-事業継承-

次代へつなぐ経営

変化の時代、広がる選択肢

販売店4社が語る時代の変化を乗り切る戦略
第2部 -人材育成-

 新春座談会の最終回となる3回目のメーンテーマは「事業継承」。株式や資産譲渡の問題、継承者の有無、経営者の資質に関する問題など、いつの時代も継承に悩む経営者は多い。加えて今はかつてのように右肩上がりの時代ではないため、よりその悩みは深くなる。そんな中でも、出席者各社は親子や身内、プロパーなどに対して、様々な形で事業の継承を進めている。さらには、継承の一つとして、M&A(合併と買収)も話に上がるなど、多様な事業継承の方法が議論された。

アサカ機工 仲田拓司社長
アサカ機工 仲田拓司社長
司会 機械工具業界も創業者から2代目へ、2代目から3代目への継承期にある会社が少なくありません。事業継承についてお聞きしたいのですが、まずは、継がれた側のご意見をお聞きします。仲田社長はどんな経緯、覚悟があって会社を受け継ぎましたか。

仲田 アサカ機工の社長就任時、先代から言われたのが「何でもお前に任せる」という言葉でした。色々相談しても「時代が変わったので俺はわからないからお前に任せる」と。最初は戸惑いましたが、とにかく責任を感じました。   

金沢 奥さんと結婚された段階で会社を継ぐということですよね。

仲田 そうですね。私の実家のほうも事業をしていたのですが、色々考えてアサカ機工を継ぐことに決めました。

仲田氏 先代はきっぱりと渡してくれた

小林 しかし、先代の社長は潔かったんですね。

仲田 そうですね。どういう形がベストか考えていたのだと思います。同業他社できっぱり渡してしまった企業と、社長が最後まで頑張っていた会社を見て、きっぱり渡す前者のほうがいいと判断したのだと思います。それと「五年後に渡すから」と期限をずっと言われ続けていましたね。

小林 社長交代は先代がおいくつの時ですか

仲田 私が入社して12年後の37歳の時に実際に社長を交代しましたので、67歳の時ですね。

司会 先代時代の番頭さんなどもいたと思うのですが、社員交代の難しさはなかったですか。

仲田 それも先代がひたすら古参の社員に「こいつに任せるから」と言い続けてくれました。また、新入社員が入った時も私に採用や教育をさせてくれましたし、段々若返っていきました。

金沢 なるほど。しかし、先代も元気でおられたから、古参の社員にいい意味での目を光らせてくれていたんでしょうね。

小林 中々理想的なケースですね。

長谷川工機 長谷川浩司社長
長谷川工機 長谷川浩司社長

長谷川氏 メーカー、商社、販売店の視点必要

司会 では、会社を渡す側のご意見を聞きたいと思います。長谷川社長のご子息は会社を継ぐ意思がおありだとお聞きしました。具体的にどのような形で進めようとしていますか。

長谷川 息子は大学を卒業後、2年間工具メーカーで修行して、今は卸商社で業務を担当しています。その後は同業の販売店に預けたいと思っています。

司会 こうしたプロセスを踏む理由は。

長谷川 うちに入ってしまえば他の企業を見ることができなくなってしまいます。また、うちが良いと思って採用していることも、他社から見れば良いとも限らないこともあるかもしれない。メーカー、商社、販売店それぞれの視点を持ってもらうためですね。私が新卒で入社した時は、「長谷川さんの坊主か。これがフライス盤で…これがドリルで」という風に教えてくれるお客さんがいました。今はそんな人はいない。だからメーカーで、そうしたことも学んで欲しかったんです。

司会 かなり計画的に継承を進めていますね。

長谷川 そうですね。また、息子が入社するまでは新入社員も取るのを控えています。息子の入社後に一気に世代交代を進めるためです。その時に若い世代を中心に新たなスタートを切ってもらえればいいと思っています。今から5年、10年後と考えると、今の50代はほぼ退職時期を迎えていますし、40代が上にいる中でどうしていくか考えて欲しいと思っています。10年経てば私も66歳ですし、それまでには答を出したいですね。

司会 10年以上掛けて継承するわけですね。決めたのはいつですか。

長谷川 息子が大学3年の時です。その時に息子に確認して、「継ぐ意思がある」というので、メーカー、商社、販売店に修行に行くという流れを息子に伝えました。

司会 「継ぐ」と決断させるために、何かしていましたか。

長谷川 これと言ってしていないですね。私を見ていて「楽そうだ」とでも思ったのではないでしょうか(笑)。

金沢 長谷川さんにお聞きしたいのですが、息子さんが定年退職できるまで何十年と今のままでこの業界は存続して、繁栄できていると思いますか。

長谷川 今のままじゃ難しいでしょうね。将来的にはM&Aか何かでホールディングカンパニーを作ってそれなりの規模を保たないと難しいのではないでしょうか。

金沢 それは息子さんがするのか、長谷川さんの代でするのかどちらになるでしょう?

長谷川 私の世代で実現したいという思いはありますが、難しいと思いますし、実際は息子の代かもしれません。

金沢工機 金沢邦光社長
金沢工機 金沢邦光社長

金沢氏 M&Aも事業継承のひとつの形

司会 ホールディングの話も出ましたが、M&Aを考える企業も増えています。先日、神奈川の組合が「事業継承としてのM&A」というセミナーを開きました。業界でもそうした事例がありますし、継承の一つの形です。そのセミナーを企画したのは金沢社長だとお聞きしました。その目的について教えて下さい。

金沢 今すぐにM&Aというようなことではなくても、やり方の一つではあると思うんです。事業継承の課題が解決できないような場合、最後の最後にそういう選択肢があってもいい。私は子供がいなくて、現在57歳なので、そろそろそういうことも考えなくてはならないし、実際に社員とも話しています。

司会 どのように社員に伝えているのですか。

金沢 何人か一緒に個人商店を作りなさいと言っています。個人商店では仕入れが難しいのであれば、金沢工機が仕入れてそこから買う形にすればいい。それぞれが力をつけていって、最終的には「本格的に独立をしてもいいよ」と言っています。私に何かあった場合、経営はできても株の問題が必ず発生します。だから、全員が個人商店というか新しい組織に移ってもいいので、私だけが金沢工機に残って最後に廃業する形もありかなと。とはいえ、私が急に病気になって余命1年なんてなると、M&Aしかない。今は社員にいろんな選択肢を見せているところですね。

司会 皆さんどういう反応ですか。

金沢 難しいですね。というのも、彼らは失われた20年で、社会に出てから良い思いをしたことがない。経営なんかとんでもないという感じですね。じゃあどうしようかという時に「M&Aという形もあるよね」と言っています。しかし「企業文化が変化したり、やり方が変わったりするのは嫌だ」という意見もあるものですから、株の問題はともかく、誰かがとりあえずは経営だけでもできるように、二人を取締役にしました。一方で、M&Aで大手が買ってくれれば安定するという一般的な見方もありますし、色んな言葉を投げかけています。

司会 そこまで社員に話しているのですか。

金沢 全部オープンにしていますし、その一環で海外部門を2月に独立させます。金沢工機からも資本は入れないし、私も取締役にならない。ただ、金沢工機から商品を売るだけ。それでうまくいけば国内でもできるかもしれませんし。

司会 それってすごい形の人材育成になっていますよね。

金沢 確かにそうかもしれません。5年ほど前にこうした話を始めたのですが、言った時からみんなしっかりし始めてきた気がします。独立する海外部門の社員は、銀行と話し合ったり、仕入先を呼んで話したりしています。資金繰りや借入額をどうしようだとか、勉強しています。

日立企画 小林一也社長
日立企画 小林一也社長

小林氏 経営者に能力押し込むのは限界

司会 小林さんは創業者ですが継承は?

小林 うちは息子がいるのですが、「継がない」ということなので、甥っ子に継承する予定です。私は切削工具メーカーの出身なので、経営の「け」の字もわからないところから、切削を中心に会社をはじめ、拡大してきました。けれども、同じことを甥っ子に求めても難しい。だから、自分が独立した気になって、今の事業とは別の柱を作ってくれと言っています。ロボットでも、設計でも、エンジニアリングでもいい。とにかく、自分で得意なものを作ってくれと言っています。

司会 資本の継承はどうしますか。

小林 甥っ子なので当然、私の資産譲渡の問題は必ず出てきます。土地建物を信託のような形にして、会社から分離させようと思っています。そうなると、M&Aでも比較的簡単じゃないですか。場合によっては、M&A以外にも、何軒かの工具屋さんと連合を組んで、同じサービスを提供できるネットワークを作ってもいいと思います。

長谷川 私もそう思います。思いを同じくする企業同士がくっついて、ホールディング化するのもいいですし、それが近道で現実的かもしれない。

小林 そうですね。経営書には「企業は経営者の情熱と資質によって勃興し、その人の死と共に運命を共にする」とある。それではダメだから、継承していくわけですが、経営者個人でやっているようなところは能力の限界もあるし、家業としての工具屋は限界がある。要は経営者一人に能力を押し込んでしまっていた僕らの時代と違って今はもう無理なのかもしれない。コラボするか、連合するか、M&Aなども選択肢に入れる必要だと思いますね。

司会 直系で継承していくことができない場合は、事業承継も一つの形ですね。本日はお忙しいところ、長時間にわたりありがとうございました。

  了  

日本産機新聞 平成29年(2017年)1月25日号

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