2024年11月8日(金)

販売店4社が語る
時代の変化を乗り切る戦略
第1部 -業界の課題-

人づくりに活路

価格ではなく価値提案を

 ユーザーの海外移転やネット通販の台頭など機械工具業界を取り巻く環境は変化し続けている。一方で事業継承を迎える企業が多かったり、人材育成を強化したりと社内でも取り組むべき課題は多い。こうした背景から恒例の本紙新春座談会では、「業界の変化と対応策」、「人材育成」、「事業継承」の3つのテーマについて、東京、神奈川、埼玉、茨城から販売店4社の経営者に語ってもらった。エンジニアリングなどネットにないサービスを強化したり、独自の育成法を採用したり、M&Aや提携による事業継承を模索したりするなど、勝ち残りに向け、新たな戦略を模索する販売店の姿が浮き彫りになった。

座談会出席者(50音順)

アサカ機工 仲田拓司社長

アサカ機工
仲田 拓司社長

 埼玉県新座市に本社を構える。社員8人。昭和47年に埼玉県朝霞市で創業し、5年後に新座市に移転。埼玉県南地区が中心。切削工具が売上の半分以上を占め、残りは作業工具、電動機器が10%ずつ、測定が20%。機械工具商社に入社後、創業者の娘と結婚し、同社を継いだ。49歳。

金沢工機 金沢邦光社長

金沢工機
金沢 邦光社長

 昭和25年に町田市で創業し、30年前に現在の相模原市に移転した。フィリピンとインドに拠点を持つ。社員16人。売上は切削工具が中心。工作機械が10~20%。取引先は、中小企業の顧客が中心で大手は少ない。大学卒業後、工作機械メーカー、工具商社を経て、20年前に社長に就任した。57歳。

長谷川工機 長谷川浩司社長

長谷川工機
長谷川 浩司社長

 東京葛飾区に本社、茨城県守谷市に営業所を持つ。昭和39年創業。社員15人。切削工具が売上の3割。工場設備関連が多い。メーン顧客は、測定機器メーカーや食品関係。中小零細から大手企業まで幅広く取引がある。大学卒業後、同社に入社。平成14年に社長就任。56歳。

日立企画 小林一也社長

日立企画
小林 一也社長

 茨城県日立市に本社を構える。社員6人。取引先は日立製作所、最近では三菱日立パワーシステムなど大手が中心。建設業向けの治工具の製作や機械のメンテナンスや修理、機械の据えつけなども手がける。大学卒業後、工具メーカーに入社し、90年に独立。日立企画を設立した。58歳。

司会 まず10年の変化を語って頂くことで、業界の課題を明らかにし、それに対しての取り組みを議論して頂きたいと思います。日立企画さんは大手ユーザーが多いですが、業界を取り巻く環境の変化にはどんなものがありますか。

小林 部品加工などの下請け工場は専業化しているので、実は大きく変わらないんですよね。変化が大きいのは大手です。大手は突然製品がなくなってしまうことがあります。例えば原発関連などでは、国の政策によって一気に設備投資が生まれます。しかし一方で、競争に負けると突然一気になくなる。これは10年前とは大きく違うところかなと思います。

司会 海外への移転はどうでしょうか。

小林 もちろん海外移転はありますが、大手はあらゆる変化が激しい。トップの決定いかんによって、仕事が一気に海外だろうが、国内だろうが出ていく。さらに組織も変わって、社名すら変わるし、同じ人の名刺が半年ごとに違うなんてこともあります。究極的には大手はアッセンブリメーカーになって切粉を出すことが少なくなるように思います。逆に大手しかできないものに投資していくのだと思います。

司会 大手にしかできない投資とは。

小林 三次元プログラムを使う数億円レベルの設備投資は大手しかできません。それと大手の特徴かもしれませんが、サラリーマン色が強いので意外と何を作るというのが明確ではないし、個人レベルで意思決定できないことが多いように思います。個人に決定権が少なく、なんとなく投資が決まっていく。個人との関係を築いても投資がわかりづらい。だから大手向けに物販をやるというのは難しいと思う。それよりも治工具を製作するとか、機械の修理やメンテナンスを行うということに、ここ10年で軸足を置くようにしました。

司会 ネット通販や一括購買など、購買の方法に変化はありますか。

小林 基本的に出入りの販売業者というのは信用されていないと思うんです。「商社とは何か」という存在意義の議論になってしまいますが、ピンハネしているという目で見られていることも忘れてはいけない。だからこそ何かしら価値を付けないといけないと思う。

司会 価格勝負だけではいけない。

小林 中には、値段だけを強みとする商社もあって、クレームだけが当社にくるケースもあります。ある事例ですが、海外に進出する企業で設備を輸出するための証明書の書類作成を頼まれたのですが、価格だけの商社ではこうした対応はできない。また特殊品を頼むときには、ユーザーはメーカーと直接話をしたがる。大手ユーザーから見ると商社は中抜きする存在なのかなと思います。商社をなるべく使いたくないという考えが大手ユーザーにはあるのかもしれませんね。

司会 金沢さんはいかがでしょうか。

金沢 大きく変化した点は4つあります。一つはネット通販の台頭です。大手商社ではネット通販業者が大口顧客になっているというケースもあるぐらい構造が変化している。一般消費財ならまだしも、機械工具流通でもここまで広がるとは想像していませんでした。2つ目はお客さんの海外移転です。最近ではベトナム、アメリカ、タイ、メキシコなどに進出する企業が多いですよね。3つ目は、お客さんの廃業が増えたことですね。数人のユーザー企業では消耗品の注文は月に数万円程度でも、何年かに1回は設備投資をしてくれる。これが無くなるのは痛いところです。すでに廃業宣言されている会社が何社もあり、お客さんが減っていくばかりです。4つ目は当社がある相模原市特有ですが、圏央道ができたのは大きな変化です。配達しやすくなるメリットの反面、周辺から進出する企業が増えて競争が激しくなるというデメリットもあります。また、リニアの開通で、相模原市に駅ができるので、工場を移転する企業も増えており、これは製造業にとってはマイナスかもしれません。

司会 ネット通販の具体的な影響や事例はありますか。

金沢 ネット通販のカタログを見せてくれるお客さんもいますし、「こういう商品はネットで買っているよ」と教えてくれるお客さんもいます。それだけ浸透しているということです。一方で、ネット通販は必ずしも安いわけではないし、金沢工機さんは情報持っているから、お付き合いする価値があるといって下さるお客さんもいます。

司会 そのあたりが今後の生き残りへの突破口になるのでしょうか。

金沢 全てのお客さんが、我々がネット通販ではできないことをやっているということを理解してくれると良いんですけどね。

司会 工場移転する顧客もあるとのことですが、移転したユーザーはどこの販売店から買うことになるのでしょうか。

金沢 当社の話ではないですが、要望があって移転先について行った同業者がいます。しかし、結局地域のつながりなどから『地元の販売店を使う』ということになって撤退した話もありました。かつて相模原は移転を受け入れる側でした。バブルが崩壊して現在に至るまで、相模原からさらに地方、もしくは海外へと移転しているというのが現状ですね。

司会 東京でも、ものづくり企業が減ってきていますが、長谷川工機さんはいかがでしょうか。

長谷川 同じく廃業が多いですね。数人規模の会社だと後継者がいないというのが大きな理由になっているように思います。自分の仕事に誇りを持ってはいるけれど、子供たちに継がせるには昔のように儲かる仕事ではなくなっているので、後継は難しいと考える経営者が多い。しかも古い機械を何とかやりくりしながら、「とりあえず自分の代までだね」という会社が多いですね。

長谷川氏 「ネットを最大限活用」

司会 他に変化はありますか。

長谷川 当社の変化でいうと利益率が下がってきています。大手販売店が当社の商圏に進出してきて価格競争が激化しているのが理由のひとつです。また、皆さんが言われるようにネット通販の影響はもちろんありますが、我々にも問題があったのだと思うんです。かつてある商社が金型部品の標準化を進めた時、我々もお客さんに「便利だし、そちらから買ってください」と言っていました。その商社がシェアを高めた結果、金型部品は見積もりすらも来ないような状況になってしまいました。

司会 手間だからといって他社に任せてしまったことも反省としてあるわけですか。

長谷川 そうですね。しかしネットも悪いところだけではありません。ある大手ユーザーでは、あるネット通販システムを活用していまして、当社もそこにアドオンする形で取引をさせてもらっています。そのおかげもあって、元々当社が訪問していた工場だけでなく、(そのユーザーの)沖縄から北海道まで全工場と取引が可能になりました。これはネットがなければ繋がれませんでした。ネット通販が必ずしも負の部分だけではないと思います。

司会 アサカ機工さんはどんな変化があったでしょうか。

仲田 リーマンショックを境に大きく取り巻く環境は変化したと思います。それまではどんどん右肩上がりだったのが、一気に落ちました。回復したものの、その後は横ばいが続いているのが現状です。また、ネット通販の台頭のマイナスの部分もあるとは思いますが、私からするとネットは価格がはっきり出ているので、むしろありがたい部分もありますね。

司会 どういうことでしょうか。

仲田 ネット通販は無茶な値下げ対応はしないので、思ったより利益がとれるなんてこともあります。また、お客さんがネット通販を使っていれば価格が大体わかっているので、提案すべき価格帯もわかりやすく、逆に利用させてもらう部分もあるのかなと思います。怖いのはむしろ同業者ですね。新規開拓のために「そんな価格でやっていけるの」という価格を平気で出してくる会社もあります。後々まで価格だけ残ってしまうので商売がやりにくくなって困っています。

司会 ネット通販はある程度価格を守るけれど、同業者の場合はそれに関係なく値下げしてくるということですか。

仲田 結果的にそうなるのですが、ビジネスモデルの特性上仕方ない部分もあると思うんです。
我々はユーザーに提案に行く。つまりユーザーという列に自ら並んでいるわけです。そうなると価格競争の要素が大きくなる。一方ネット通販は、ユーザーに並んでもらうような仕組みなわけです。支払い条件を指定し、対応できなければ、「どうぞ他で買ってくださって結構ですよ」というスタンスです。お客さんの方にうまく並んで頂ける仕組みは何か活用できないかと思います。

顧客に真摯に向き合う姿勢

小林氏 「+αのサービスに力」

司会 大手ユーザーの急激な変化や海外移転、ネット通販の台頭、取引先の廃業、価格競争など、様々な課題が上がりましたが、これらを解決し、勝ち残っていくための具体的な取り組みをお聞きしたのですが、小林社長はいかがでしょうか。

小林 当社の場合は、機械のメンテナンスや治工具の製作などを行っていますが、「仕入れないで売れる物=プラスアルファのサービス」に力を入れています。そのおかげもあり、昨年、売上高は2割減でしたが、利益は1・5倍まで増えました。そしてスピードアップですね。通販は今日注文したら明日には届きますよね。365日24時間対応できる体制づくりが必要ではないかと思います。

司会 かなり大胆な意見ですね。

小林 我々もサービス業です。サービス業であるからには、迅速な対応が求められる。例えば自動車では、故障があればいつでも駆けつけるJAFのような仕組みを、機械工具業界全体で作ってもいいのではないでしょうか。

司会 営業面では?

小林 なるべくユーザーの要求を受け止める営業を心掛けています。機械が壊れたら直す、場合によっては廃棄する。当社ではエアコンの工事や、機械の部品交換なども請け負っています。自分たちでやってしまった方が早いし、その分利益をもらえればいいですからね。最近では工具の再研磨も考えています。仕入れ力=規模でもあるので物販だけではなく、サービスを強化する方向で考えています。

司会 そうした会社のスタイルをお客さんに浸透させるためには、どうしたら良いでしょうか。

小林 いかにしてお客さんの懐に入り込むかですかね。例えば機械を販売するだけでなく、その販売した機械がどこで、どういう風に使われているかなど、日頃から色々な話をユーザーとしておく。そうすると、その機械が壊れた時に修理依頼の声がかかります。これを地道に続けることが重要だと思います。イメージがお客さんに定着するまでに10年位かかったんじゃないでしょうか。今でも私は依頼があれば修理に飛んでいきますよ。そうすると「社長自らやるのか」という印象を残すことができ、次の仕事にも繋がりやすくなります。

司会 金沢さんは海外展開などもされていますが、課題への対応はいかがでしょうか。

金沢 海外に関してはフィリピンに10年以上前に進出しています。国内が悪いときは海外が売上の2割を占めることもありました。そういう蓄積があったので、お客さんが海外に進出すると真っ先に声をかけていただけます。海外は金沢工機に頼めばなんとかなるという印象をつけられたのは良かったですね。

金沢氏 「生き残りへ提案力磨く」

司会 ネット通販への対応は。

金沢 消耗品ではなく、物件ものや工作機械に力を入れています。打ち合わせが必要なものはネットでは買えないですからね。最近は積極的にこうした案件を取りに行っています。

司会 粗利益率が下がる懸念もあります。

金沢 確かに課題です。しかし、粗利率も粗利額も両方とも追いかけることが大事だということを話しています。例えば500万円の製品で粗利率が5%でも25万円頂けますよね。ドリルで25万円の利益を出そうと思ったら何百本も販売しなければならない。ユーザーの廃業については、否定的な見方になりますが、我々もダウンサイジングという選択も必要ではないかと思っています。

司会 どういうことでしょうか。

金沢 消極的な考えかもしれませんが、今は企業規模を小さくしても提案力などを磨いておけば、将来、需給バランスが改善されれば生き残っていけるのかなと考えています。お客さんが廃業しているのと同時に我々の同業者も廃業しているんですよね。規模を大きくする戦略だけではないと思うんです。

司会 長谷川さんはどうですか。

長谷川 価格競争の相手である大手販売店に対抗するにはこちらもある程度の価格の競争力を確保しなければいけません。そのために、今は量を売ることに注力しています。また、仕入れ先の問屋さんを集約することで、コストメリットを出しています。ネット通販に関しては、先ほども申し上げましたが、あるネット通販会社のシステムにアドオンする形でネット取引を増やす努力をしています。

司会 どういうシステムですか。

長谷川 全国の工場の現場の人が購買担当者を通さずに、パソコンを見て値段も分かり注文できるシステムです。そこに長谷川工機の窓口を設けてさせてもらっています。大手ユーザーは自社やネット通販のこうした仕組みを使っているので、協業していくしかないなと考えています。

司会 その仕組みに乗ろうとしたきっかけは。

長谷川 ネット通販からの打診もあったのですが、ユーザーにしてみれば当社が日々その工場に出入りしている安心感もあったのでしょう。

仲田氏 「人を介する部分に強み」

司会 リアルで認められているからこそネットでの取引も可能になったわけですね。仲田さんは取り組んでおられることは。

仲田 営業の質を上げることですかね。かつてはユーザーに顔を出して「アサカ機工の営業担当です」という形でも仕事は頂けましたが、今は状況が違います。ちゃんとした会話ができないと他社に注文が流れてしまいます。数字を伸ばしている人間は、商品知識がなくても周りを盛り上げるのが総じて上手です。ネットは人を介さないけれど、私たちは人を介する部分に強みがあるのならば、ちゃんと会話して、コミュニケーションを取らなければ強みは活かせません。私がよく言っていたのは、わざとこけるなどして、会ったときに一瞬でもお客さんにニコッと笑ってもらえればいい。そういう細やかなことが、ゆくゆく注文に繋がっていけばいいなと考えています。会話や挨拶でも何か一言添えることが大事ではないかと思います。人の気持ちを動かすということを勉強するのは大切だと思います。

司会 ネットに関してはいかがでしょうか。

仲田 価格表を利用するのは一つの方法だと思うんです。価格表をつくるのは正直大変ですし、価格が変わりましたと言ってもお客さんには伝わらないです。なので、ネットだとそれがある程度明確になっていますから、その周知に活用できると思います。しかも、そう安くない価格で載っている場合もありますから。

司会 先ほど、同業者のほうが怖いといわれましたが。

仲田 そうですね。怖いのは無理してでも値下げしてくる同業者です。ただ、怖いからといって同業者ばかり見ているのではなく、お客さんとどう向き合うかということを考えることが重要だと思っています。

司会 他にはありますか。

仲田 小林さんと同じく何でも受けることですかね。とりあえずユーザーが言っていることを一旦聞いてから判断することが必要だと思います。ただ、「なんでも受けますよ」と言ったら膨大な量の含有物質調査依頼が来まして(笑)。3カ月以上経ってもまだ終わらないです。凄い手間ではあるんですが、「うちから出てない商品もありますね」という話をすると、「じゃあ今度からはお宅で買うようにするよ」という話にもなります。こうした話は手間かもしれませんが、メーカーの技術者との直接の接点が増えるのもプラスですね。いざという時お願いできますし、こうしたつながりはネットでは構築できませんから。

第2部 販売店4社が語る時代の変化を乗り切る戦略 -人材育成-に続く

日本産機新聞 平成29年(2017年)1月5日号

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