2024年11月22日(金)

【航空機産業特集】
ボーイング社 大幅な増産を計画
バイスプレジデント レーンバラード氏に聞く今後の変化

月産14台を目指す787ドリームライナー(チャールストン工場)

短納期・コスト低減・自動化・環境
新素材の活用増加

 好調な受注を受けて増産体制を整えるボーイング社だが、2世紀目の歴史を刻み始め、掲げる課題も多い。航空機づくりにおける今後の変化について、マテリアルマニュファクチュアリングテクノロジー担当 バイスプレジデント レーンバラード氏に聞いた。

データ活用で納期短縮

ボーイング社
マテリアルマニュファクチュアリング テクノロジー担当
バイスプレジデント レーンバラード氏
ー需要が拡大するなかで、課題として、「短納期化」「コストダウン」「環境負荷低減」「安全性の向上」などを挙げておられます
 当社は、昨年100周年を迎え101年目に入りました。2世紀目の航空機づくりという理念のもと、設計と製造方法を変革することでコスト構造を変えてコストを低減し、製造プロセスをよりシンプルにし、最終段階でも顧客要望に対応したカスタマイズを可能にして、より早く納品できるように取り組んでいます。モジュール化を進め、より早くフル生産に持って行くことも進めています。また、デジタルスレッド。これを基本に据え、さらに拡大していきます。各部品のライフサイクルにおける情報を全て把握できます。スペックや、誰がどこでつくったかがわかり、必要な部品が、いつ、どこで、どれだけのコストでできるかを瞬時に把握でき、コスト削減・生産の効率化・品質管理に有効です。デジタルツインにより、シミュレーションを駆使して、コンカレントエンジニアリングを可能にし、納期短縮による競争力アップにも取り組んでいます。
 
ー素材が変化しています
 現在は、複合材とチタン合金の使用比率が増えています。787型機では、重量ベースで約半分が複合材(1機あたり35t)で、主翼・胴体にも使用しました。これにより、軽量化による燃費改善、耐腐食性の向上により整備負担の削減、加湿が可能になり客室環境が改善…といった効果を実現しました。今後も、コストと機能のうえで、有効な新素材の活用に取り組んでいきます。

切削と積層造形の組み合せ

主翼加工用ツール
3Dプリンタで製作した
主翼加工用ツール
ー積層造形法を採用しています
 現在当社は、3Dプリンタで制作したワイヤブラケットや空調コントロールダクトなど約5万点を、10種類の民間航空機や防衛機に搭載しています。今年、連邦航空局の承認を得て航空宇宙製造業者として初めて、787(ドリームライナー)に3Dプリンタで製作した構造用チタン部品を組み込みました。3Dプリンタは、部品の製作にも使用しており、技術者が簡単に部品のプロトタイプを製作したりデザインをしたりするために便利なツールとして幅広く活用しています。777Xの主翼加工用のツール(約5.3×1.7×0.5m、炭素繊維強化樹脂)も制作しています。3Dプリンタで製作した世界最大のツールで、速く、低コストで製作できました。しかし、3Dプリンタが切削加工に取って代わるものではありません。切削加工は重要であり、無くなることはありません。3Dプリンタは最適な部品形状を素早く設計するのに便利ですが、その仕上げも切削加工です。

自動化で現場の安全性向上

金属積層造形の活用が増えている
金属積層造形の活用が増えている
ー生産の自動化に取り組んでいます
 より高い品質を確保しながら作業者の安全性を高め、長期的にコストを削減するために高度な自動化に取り組んでいます。特に作業者にとってハードな現場には、最新のマシンを導入しています。

 777型機の可動アッセンブリラインとリーン技術は、スムーズで連続的な生産フローを可能にし、品質と効率を向上させます。移動時間と生産コストを削減し、作業者がより簡単に作業できる環境をつくっています。全てのツール、部品、計画、作業指示が作業者に配信されるので、必要なときにいつでも必要なものを全てを入手できます。

 737型機のアッセンブリは全てリーンで、ラインスペースを最大にするように設計されています。特徴は、その柔軟性と効率性です。これにより需要に応えるべく月産57機を達成します。

ーバイオ燃料の研究をしています
 ケロシンの代わりであり、航空機の石油への依存を低減し、環境保全に貢献しようとするものです。エンジンや機体を変更する必要はありません。2009年にバイオ燃料とケロシンを混合してJALと共同で日本初の飛行試験に成功しました。20年までに日本の航空バイオ燃料導入に向けた取り組みを日本政府やJAL、ANAとともに取り組んでいます。

ー電気航空機の研究も
 NASAからの依頼である期間研究をしました。SUGAR Voltというコンセプトで、ハイブリッド自動車とよく似たシステムで電力とジェット燃料の双方で駆動するエンジンを使用します。離陸時などパワーが必要なときにそれぞれのエンジンで燃料を燃やす双発機という構想です。CO2排出を減らすため、飛行中は電力のみまたは電力で補助しながらエンジンを駆動させます。ジェット燃料の消費を現状の約30%まで減らし、騒音も低減させます。現在も、次世代推進システムの研究を進めています。

ー航空機の部品点数は約30万点といわれ、自動車の約10倍の点数になります。品質管理はどのようにしていますか
 必要に応じて問題を迅速に特定し、修正するための強力な品質管理システムを運用しています。安全な製品を設計し、組み立て、テストに至るまでです。新しい技術を活用して、さらなる安全性を構築します。メンテナンスガイダンスの提供や世界中の機材を常にモニタリングするなど、世界の政府、運航会社、サプライヤーなどと協力体制を整えています。

ボーイング ラインアップ
ボーイング ラインアップ

サプライチェーン拡大へ

ー増産体制を確立するためには、サプライチェーンの強化が不可欠だと思います
 サプライチェーンの能力は定期的に見直し、将来のコストをクリアできるように計画を立てています。必要に応じて協力して問題解決に取り組んでいます。

ー日本の製造業者がボーイング社のサプライヤーになるにはどうしたらいいでしょうか
 我々は、40年以上、日本の製造業の皆様と一緒になって航空機をつくってきました。日本には優れた技術を持つ会社がたくさんあります。お客様の必要とする高品質かつリーズナブルなコストで提供するという共通の使命感と運命感を持つサプライヤーを探しています。当社の全ての飛行機を製造するうち、約65%はサプライヤーの製造によるものです。まずは、当社のホームページ上の「Register Your Company」のSupplierGATEWAYⓇプロファイルに必要な企業情報を登録してください。当社の担当者が入札時に有資格企業を検索します。
(写真の出典はボーイング社)

概要
本社:米国イリノイ州シカゴ
従業員数:16万人
製造工場:エバレット工場(B747・767・777・787―8/787―9)
     チャールストン工場(787―10)
     テントン工場(737NG・737MAX)

日本産機新聞 平成29年(2017年)12月20日号

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