2024年11月25日(月)

【新春販売店座談会】第1部 機械工具業界の役割①

 2000年代もすでに20年を迎えた。この20年間は機械工具業界を取り巻く環境や技術も大きく変化した。00年代初頭からのユーザーの海外移転、ネット通販の台頭などの環境変化に加え、最近では、自動化提案のためのエンジニアリング強化、IoT技術の活用など新技術も登場し、販売店は現在進行形で変化を迫られている。恒例の新春座談会では、00年代初頭に社会人となり、この20年の変化を実感している30代後半から40代の若手経経営者に4人にお集まり頂いた。変化する業界にあって、改めて「業界の存在意義」、「そのために必要な取り組み」、「魅力ある業界にするには」の大きな3つのテーマについて議論してもらった。

顧客の成長をサポート

コト売りへの変化

旭機工 根岸 崇之社長(43)
 拠点は本社のみ、工場を併設している。営業エリアは、栃木県南、茨城県西が中心。顧客は大手より中小が多い。顧客は業種の偏りなく、地域のものづくり全般にわたる。切削・測定他工具類30%、産業機器35%、伝導用品25%、工作機械が10%ほどという構成。自社工場を持ち、旋盤やフライス盤、切断機などを設備。追加工や一部部品加工を手掛けている。
創業:1961年 従業員数:24人

司会 機械工具業界の存在意義、求められる役割はどのようなものだと思いますか。

藤生 まず、機械工具商に求められる本質は今も昔も変わっていないと思っています。ただ、時代の変化に合わせた提案は大切だと思っています。製品は日々進化していますし、お客様の環境も変化しています。例えば、人不足が深刻化し、今はIoTやロボットを活用した無人化、省人化といった提案が必要です。アジア諸国などの海外から人を雇用しているお客様も増えているという状況も昔にはなかったかと思います。ただ、我々に求められる本質は変わっていないと思っています。

司会 本質とは。

藤生 機械工具商はお客様の利益に貢献するためにあると思っています。お客様が得をする提案、生産性の向上であったり、コスト削減であったり、お客様の生産活動に寄与する提案が、我々に求められていることだと思います。だから、時代に合わせた提案をすること以外、私達の存在意義は今も昔も変わっていないと思っています。

京二 井口 宗久社長(39)
 関東を中心に4拠点を構える。昨年には、名阪営業所(愛知県)を設けた。中国には現地法人上海京二を持つ。関東から東北が営業エリアで、自動車、建機など大手ユーザーを顧客に持つ。名阪営業所を設けるなどエリアを広げている。切削やベアリング、産業機器が主力。06年に中国切削工具の取り扱いを開始。最近はロボット推進室を設け、食品業界にロボットを含めた自動化システムの提案に成功した。
創業:1946年、従業員数:50人

司会 お客様の利益に貢献するためのサポートをするということは不変だということですね。

藤生 分かりやすく言えば、お客様のためになることをして、自社の利益につなげること。ただ、やり方を時代にあったものにしていかないと、お客様に満足いただけない。その質をどれだけ高めていくかが、取り組むべきことだと思います。

司会 井口社長は機械工具業界の存在意義についてどう思いますか。

井口 前職はIT業界でしたが、色々あって家業を継ぐと決めて業界に入ってから、じっくり機械工具業界の役割は何かと考えると、藤生社長が言われたのと同じように感じました。

司会 顧客を儲けさせるためのサポートですね。

井口 そうですね。また、それを実現するのに、我々には金融、在庫、メーカーの営業代理機能の3つがあると思います。その機能を果たしつつ、専門性を活かすことが機械工具商の役割だと思いますし、それは変わらないと思います。ただ、一部では求められることが少なくなった機能はあると思っています。

淵本鋼機 淵本 友隆社長(39)
 新潟に2拠点、長野に2拠点、海外ではタイ・バンコクに1拠点を構える。国内は新潟、長野に顧客が多い。新潟は大きな産業が無く様々な業種が入り混じっているため、幅広い分野の顧客を持つ。1社への依存度が低のも特徴。売上の6割を占めるなど切削工具がメイン。その他は測定工具や工作機器、環境機器など。最近では、BCP提案に注力している。毎年、春に長岡市内で自社展を開催している。毎年300~500人ほどが来場する。
創業:1949年、従業員55人

司会 どれでしょう。

井口 金融は低金利や資金調達の多様化もあって、従来ほど重要ではなくなっている。在庫も当社はお客様ひも付きの特殊品を中心に在庫を保持しています。しかし標準品は、今はネット通販のほうが在庫や物流機能は優れているので、在庫機能も相対的に低くなっているかなと感じることはありますね。

司会 営業代行の部分はどうでしょう。

井口 そこが重要になると思います。型番商品は、遅かれ早かれ全部ネットで買える時代になるだろうと考えています。カタログに載っていない商材や情報をいかにお客様に伝えられるかが、機械工具商の役割になるのではないでしょうか。

司会 とはいえ、そうした形のないビジネスは難しいです。どんなものを考えていますか。

井口 格好良く言えば、「モノ売り」から「コト売り」に変わらなければいけないかなと思っています。当社で言えば、機械のオーバーホールや、ロボットのシステムなどになりますが、説明が必要な商品を強化していますが正直難しい。カタログ品も多く扱っていますからよくわかります。

マエキ 藤生 克浩社長(38)
 群馬に3拠点、栃木に2拠点、長野に1拠点、埼玉に1拠点、海外は上海とバンコクにそれぞれ現地法人を持つ。群馬を中心に北関東に多くの顧客を持つ。海外展開にも積極的で、海外需要の取り込みに挑んでいる。機械専門商社として創業したため、設備販売に強い。売上の35~40%が機械設備で、機械メーカーの代理店権を多く持つ。工具消耗品に関しては創業後約25年を経て取り扱いを開始し、販売を拡大している。
創業:1951年、従業員数:70人

司会 根岸社長は機械工具業界の存在意義をどう考えていますか。

根岸 私もネット通販が伸びているなかで、形のあるもの、分かりやすく言えば、型番が明確なものは付加価値をつけるのは難しくなっていくと思います。いかに形のないものを形にするお手伝いできるかが我々の役目だと思います。とはいえ、そのためには新しい分野の知識武装をしていかなくてはならない。過去の延長線上だけで商売させて頂いていることもやはり多いですから。

司会 どうすべきでしょう。

根岸 前提としてお客さんをよく知るということが必要で、社内では「顧客をもっと知ろう」と掲げています。お客様がどういう方向に進もうとしていて、どんな問題があっるのか。お客様の課題に深く踏み込んだ会話をしないとダメだと思います。それが存在意義になるかと思います。できなければネットの波に飲み込まれていくことになりかねないと思います。

中小製造業の導き手に

司会 淵本社長のお考えは。

淵本 皆さんと同じで、お客様の発展に貢献するということは不変だと思います。加えて、少し漠然としているのですが、中小規模のお客様を次のステップに導くということも果たすべき役割の一つのように思います。

司会 なぜそう感じるのですか。

淵本 独自技術や普遍的な企業文化を持つ魅力ある中小製造業が無くなるのは、どうなのかなと思いますので。大手は資本もあるし、独自で進む力はあります。我々のように地方の商社としての役割の一つとしてそうした中小企業のお客様をリードしていくことが重要だと感じますね。もう一つは、銀行が事業承継やマッチングも行っていますが、我々も人事や金融など経営的な課題もアドバイスできるくらいになれれば、付加価値が高められると考えています。

藤生 私もネットでは与えることのできない価値を届けることは大切だと思います。今だとBCP(事業継続計画)や、補助金制度への取り組み、働き方改革など、お客様の経営者が抱える課題の解決に寄与できる提案ができれば、自社の付加価値を高めることができると思います。BCPは関連商材につながりますし、補助金制度や一括償却の話を提案できれば、設備物件を受注できる可能性が増えます。

司会 ネットにできない価値を提供するということも役割だということですね。

藤生 ネットと機械工具商のノウハウは別物だと思います。当社も規模は大きくないものの、ネット販売事業を行っていますが、ネットは検索しやすい環境や、購入意欲をそそる仕組みをどう作るかがノウハウで、機械工具商はお客様にいかに良い提案をするかが重要で、購入に至るお客様のプロセスの観点において全く視点が違います。人だからこそできることに存在意義があると思っています。

司会 ネットの話が出たのでお聞きしますが、ネット通販が伸びていますが、どう位置付けていますか。

藤生 お客様が選ぶのであれば同じ土俵で勝負をしても、アプローチやノウハウが違うのだからしょうがないと思っています。ただ、デジタルネイティブな世代が増えれば、当然それは避けられない面もある。同じ土俵で勝負するよりも、ネットにはない魅力をお客様に届けるよう努力していくしかないと思います。

井口 私も同じ土俵で勝負できないので、ほかで追求していくべきだと思います。一消費者として考えれば使う人の気持ちもわかります。忙しい中で欲しいものを探す時、早いし、そこで商社と不確かなやり取りをするより、確実な納期で持ってきてくれるほうがという話は分かりやすいです。

司会 淵本さんは、どうとらえていますか。

淵本 競合である一方、ネットが我々の存在意義を今一度考えさせてくれるきっかけにはなったとも思うんです。ネット通販が出てきた結果、ユニークな本屋さんが生まれたなどの話もあります。そういう意味で、我々をいい方向に変えてくれるという捉え方もあると思います。一方で、藤生社長も取り組まれていますが、できる範囲でネット発注ができる環境は用意しなければいけないのかなと。フェイストゥフェイスと言われますが、それだけではない時代に来ていると感じます。システム投資などもある程度やっていかなければいけないのかなと思いますね。

司会 根岸社長はネットをどう考えていますか。

根岸 競合する部分はありますが、あくまで型番商品だけだと思います。できる範囲で対応はしますが、価格を下げたりして無理してまで「深追いしすぎないように」と話しています。むしろ、お客様との双方向のやり取りの中での課題抽出はネットではできないので、その部分で付加価値を提供すべきだと考えています。

司会 デジタルネイティブへの対応が必要との話もありましたが。

根岸 そこはその通りだと思いますね。だから、当社では、商社が提供しているネット受注の仕組みを活用しながら、受発注の対応ができる仕組みは整えています。

司会 購買活動の変化に対応しつつも、工具販売店それぞれの強みを追求していこうとされておられるのですね。そのうえで、二つ目のテーマでもありますが、存在意義をより高めるために具体的に取り組んでいることを教えてください。

淵本 根岸社長も言われましたが、我々の強みはお客様に関する情報量が圧倒的に多いことだと思うんです。どんな人がいて、どんな性格の人がいるか。お客様をしっかり知るということは、お客様の発展に貢献するために普遍的なことだと思います。そこを基本にして、展示会や見学会、海外にお連れしたりしています。お客様が自分たちの枠から超えた世界を紹介するのが役割の一つではないかと。ネットは自分たちの知る範囲の世界だけですが、リアルで新しい世界に導いていくようなことはできません。お客様同士で懇親してもらうなど、我々にしかできないことを愚直に実行していくのみですね。

続きは1月22日更新

日本産機新聞 2020年1月5日

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