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自動車産業特集・生産現場を訪ねて
ジヤトコ
日本で一番高く秀麗な富士山を仰ぐ、静岡県富士市に、オートマチックトランスミッションの分野で、CVT(無段変速機)世界シェア約45%(2014年)、累計2500万台余を誇るジヤトコがある。訪ねた日は、あいにくの曇り空で、富士山の雄姿を拝むことは出来なかったが、CVTの心臓部であるプーリーとアルミケースの加工現場を拝見することができた。
昨年度は、AT・CVT合わせて年間520万台以上を生産、2020年までには現在の約30%増に相当する、800~900万台を生産目標に掲げており、富士第1地区の製造現場は超多忙の中にあった。そこには約1000台を超す工作機械が配置され、新幹線のダイヤのように緻密に組まれた生産・組立・出荷計画に沿って3班2交代制で生産を行なっている。(5月15日、富士地区第1工場。3面菊川常務執行役員生産技術担当のインタビューと併せお読みください)。
魅惑の自動車用ミッション、プーリー
晴れた日は、きっと富士山がジヤトコの広大な工場を見下ろしているに違いない。日頃の行いが良くないのか、この日の富士山は隠れていたので、ジヤトコから写真(写真1)を借用した。ジヤトコの工場群が中央手前に広がり、奥には雪化粧した富士山がそびえている。
富士地区には、本社ビル(写真2)と第1から第4地区に分かれた工場エリアがある。東京ドーム約12個に相当する敷地面積58万㎡に、延べ39万㎡の工場建屋が配置されており、各種AT/CVTトランスミッションを生産している。
今回はCVTの重要部品であるプーリーの生産現場を中心にアルミケースの加工現場も見せてもらった。
第1地区は、東京ドームの約4個分の広さ。工場に入った瞬間、思わず「凄い」を連発するほど工作機械が並ぶ。NC旋盤ライン(写真4)からマシニングセンタライン(写真5)、タッピングセンタ、FTL、NC研削盤、ホブ盤、シェービングマシン…「JIMTOFに出展される工作機械種のほとんど」(高星英紀部品技術部長)がずらりと並ぶ。台数を聞くと「1000台以上」。
「オートマ」専門工場
ジヤトコは、自動車用オートマチックトランスミッションの専門メーカー。ステップAT、環境に優しいCVT、ハイブリッド車用トランスミッション(写真3、Jatco CVT8HYBRID)まで幅広い製品群をラインナップする。
2ペダルトランスミッションでは世界シェア第2位。2020年までに「№1メーカー」を目指しており、得意とするCVTに限れば、すでに「世界シェア45%」(菊川貴行常務執行役員生産技術担当)を誇る。
ジヤトコの源流は、1943年日産自動車の航空機部吉原工場まで遡る。
戦後間もない1946年、吉原工場は民需に転換され、ダットサントラックの生産を開始。ダットサン110型(1954年)は、素形材から部品加工、組み立てまで一貫生産された。
その後、吉原工場を含む日産自動車のAT・CVT部門が分社、独立(1999年)し、トランステクノロジー社となる。
一方では、日本自動車変速機会社が、日産自動車、マツダ(当時、東洋工業)と米国フォードの合弁で立ち上がる(1970年)。ジャトコ(当時はヤが小文字)に社名変更をしたのは今から26年前の1989年。 この両社が合併して誕生したジヤトコ・トランステクノロジー(大文字のヤ)が、現ジヤトコになったのは2002年4月。さらに、三菱自動車のAT、CVT部門が分社、独立し、ダイヤモンドマチック社を設立。同社が新たに加わって(合併)ようやく現在の姿に。ジヤトコの快進撃は、ここから始まり、いまやCVT出荷実績で断トツの企業に成長した。
国内6工場と海外4工場
同社の強みは、日本の6工場(富士、富士宮、蒲原、掛川、京都、八木地区)と、メキシコ(アグアスカリエンテス。第1、第2工場)、中国(広州)、タイ(チョンブリ)に展開する海外3ヵ国4工場、計10工場が、いずれも自動車メーカーの生産拠点の近くにあること、問題点を日々改善し、改良を加えた機械設備を海外に展開していること、さらに生産技術員をグローバルに育成し、高品質のATトランスミッションを短納期で安定供給しているところにある。
昨年メキシコでは、第2工場が生産を開始した。Jatco CVT8とJatco CVT8HYBRIDの2機種の生産をはじめ、第1工場とあわせた生産能力は年間約170万台。また、3番目の海外生産工場となったタイは、小型車用の副変速機付Jatco CVT7をタイ日産で生産するマーチ(マイクラ)、シルフィ向けに生産、年間50万台の能力を有する。
同社の主要納入先は、日産自動車、三菱自動車工業、スズキ、東風汽車有限公司、ルノー、GMなどに加え、「今後は、他の自動車メーカー様を開拓し、さらなるビジネス拡大を目指す」(菊川常務)としている。
プーリー生産現場
トランスミッションは、エンジンが生み出す駆動力を最適なかたちでタイヤに伝え、スムーズで快適な走行を実現するために不可欠な装置。ジヤトコが得意とするCVTの搭載車は、近年急増している。
魅惑のプーリー(写真6、8)がユーザーを惹きつける。難しい技術課題を解決したジヤトコの技術力が、快適な乗り心地を実現した。
CVTは、2つのプーリーとそれを繋ぐベルトによって、変速比を無段階かつ連続的に変化させることができるオートマチックトランスミッション(図)。基本構造は、エンジンからトルクを伝達する入力側プーリー(ドライブプーリー)と、トルクをタイヤへ伝達する出力側プーリー(ドリブンプーリー)、そしてこの2つのプーリーを結ぶスチールベルトからなり、変速比は、それぞれのプーリーの溝幅を変化させることで自在にコントロールできる。このためCVTは、従来のATのようなトルクの山谷や変速ショックがなく、エンジンの最適な回転数を常にキープしながら快適な走行ができる。ジヤトコのCVTは、滑らかな加速と心地よい走りを実現しているのが特徴。
特に「シーブ面」と呼ばれるプーリーの表面は、生加工の段階で、いったん顔が映るほど滑らかに仕上げる必要がある。表面が粗いとベルトが摩耗し、変速不良の原因になるからだ。旋削、研削ラインの加工と測定(写真8)プロセスでは、常に技術者が目を光らせている。
さらにプーリーのシーブ面に油だまりを作るのも重要なノウハウ。マイクロショットで硬くした後、独特の表面加工を施す。「普通に研磨した場合、ミクロ単位のギザギザが残るが、それではダメ。いったん表面をフラットに仕上げてから、改めて溝を高精度に加工する必要がある。溝にたまる油が、多過ぎても少なすぎてもいけないので、シーブ面は特に高精度に作らなければならない。」と、菊川常務。この勘所を、同社はきちんと数値化して厳密に管理する。
独自生産方式JEPS
ジヤトコは、お客様生産ラインの変化に対応し、高品質(Quality)、低コスト(Cost)、納期短縮(Delivery)における世界№1のモノづくりを目指し、ジヤトコ独自の生産方式「JEPS」(図、JATCO Excellent Production System)を構築、運用している。
これは、素材仕入から鍛造、鋳造を経て、加工、そして組立、出荷に至るまで一連の工程を1本のラインのように同じスピード・同じ順序で稼動させ、タイムリーな生産・運搬を行うことによって、一切の無駄を排除するシステムだ。
全ての流れが連動しているため、途中に一切の無駄がない。「このシステムを世界中の工場に導入することで、どの工場でも同じ品質の製品を作れる」(菊川常務)ことが同社の強みである。
真空浸炭炉
第1地区に新旧の浸炭炉がある。旧式は長く大きいため、海外展開をする際に真空浸炭炉(写真7)の導入を決断した。真空浸炭炉は、プーリーの強度を増すために欠かせない重要な設備で、「社内に能力を持つことで競争力を増し、差別化を図った」(菊川常務)。実際にメキシコ、中国、タイでは、リードタイムの短縮に威力を発揮している。
例えば、これまで600分かかっていた熱処理を200分程度まで短縮。また、新しい技術により、エネルギー消費量を抑え、CO2の削減と環境負荷を軽減した。「さらに環境負荷を削減するため、次世代浸炭炉の技術開発を進めている。具体的には、加工ラインの中に小型の浸炭炉を組み込む」(菊川乗務)ことを視野に入れている。
ジヤトコの生産技術の進化は止まらない。ますます技術に磨きをかけてトランスミッションの魅力を高めていく。(菊川常務インタビューに続く)。
ジヤトコ会社概要
本 社 静岡県富士市今泉700-1
設 立 1999年6月28日
社 長 中塚晃章氏
資本金 299億3,530万円
従業員数 1万4,800人(15年3月、連結)
国内生産拠点(6拠点)
本社・富士、富士宮、蒲 原、掛 川、京 都、八 木
海外生産拠点(3拠点)
メキシコ(アグアスカリエンテス)
中国(広州)
タイ(チョンブリ)
関連会社(国内)
ジヤトコエンジニアリング、ジヤトコプラントテック、ジヤトコツール
主要事業セグメント
自動車用自動変速機の開発・製造・販売
株主
日産自動車(75%)、三菱自動車(15%)、スズキ(10%)
日本産機新聞 平成27年(2015年)6月25日号
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