2024年11月22日(金)

生産現場を訪ねて 三菱重工エンジン&ターボチャージャ(神奈川県相模原市)

性能で勝負 1050℃の領域へ

世界6ヵ国6拠点で生産

 ターボチャージャ(過給機)の増産が続いている。世界的に燃費規制が厳しさを増し、自動車の巨大市場が動き出していることとクルマへのターボチャージャ搭載増が背景にある。一方で、軽量化、快適さを求める需要は根強く、機構、材料、重量など新技術開発を活発化させている。ターボチャージャ市場は、世界4強が95%前後のシェアを占め、三菱重工エンジン&ターボチャージャはそのトップの座に迫る勢いで伸びている。1000台の工作機械が、フル稼働の中にあった(4月15日、三菱重工エンジン&ターボチャージャで)。

生産1000万台・シェア23〜24%へ(2017年)

厳しさ増す燃費規制

 ターボチャージャ(以下ターボ)は、エンジンから排ガスを引き込み熱エネルギーでタービンを回し、同軸のコンプレッサを回転することで、流入空気を加圧し、エンジンに戻し、エンジンの燃焼効率を高める装置。

 構成部品は、排気ガスを受けて回転するタービンとタービンの回転を伝えるシャフト、シャフトを支える軸受、タービンのトルクを利用し空気を取り込み圧縮するコンプレッサ、タービンやコンプレッサの周辺の流れを制御するハウジングのモジュールからなる。

 タービンとコンプレッサは1本のシャフトの両端に固定され、同じ速度で高速に回転する。乗用車用は、1分間に20万回転を超える。

 また、タービンは高温の排気ガス(平均800から950℃)を直接受ける。近年は同社が世界最高レベルの1050℃の高温排気ガス下で稼働する小型高性能ターボを開発し、欧州の自動車メーカーに納入している。

佐藤昌浩氏
佐藤 昌浩氏
 1991年4月三菱重工業入社、相模原製作所生産技術課配属、98年オランダMHI Equipment
Europe B.V.生産技術、2008年タイMitsubishi Turbocharger
Asia Co,Ltd 工場建屋検討、製造・生産技術、14年機械・設備システムドメイン製造・調達総括部 相模原製造部主席技師、16年7月三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社製造部主席技師、主に海外にあるターボチャージャ生産拠点同士の製造・生産技術に関する情報や問題点の共有化活動を行い、円滑な生産運営に従事、現在に至る。

東京ドーム10個分
 同社は、敷地面積45万1322㎡、東京ドームが10個入る三菱重工業相模原製作所の敷地内にある。約1500人の社員(2015年7月)がここで働く。

 この広大な敷地に3つの大きな工場が並ぶ。主力は、産業用エンジン(ディーゼル、発電用エンジンなど)、ターボで、売上高は、連結(2015年度)で約700億円。三菱重工業グループの総売上高4兆円に比べれば6%に過ぎない。その小さな産業だが、他分野への技術の波及が大きいことや世界市場のトップの座を狙う重要な役割を担っている。

世界6カ国6拠点
 生産拠点は現在、世界6カ国6拠点に構える。

 1991年にオランダ(MitsubishiHI Turbocharger and Engine Europe B.V.)に生産拠点を開設した後、2004年に上海(上海菱重増圧器有限公司)、2008年にタイ(Mitsubishi Turbocharger Asia Co,Ltd)、2015年に米国インディアナ(Mitsubishi Turbocharger and Engine America.Inc)で生産を始めた。韓国は、技術供与を行い提携先にて生産している。

 オランダは、日本に次ぐ“第2の拠点”に位置づけられ、欧州の主要自動車メーカーの大半に納入実績を持つ。最近は、中国市場が大きくなっており、ここ5年間で10倍強の伸びとなっている。要因は欧州車の人気にあり、同社のターボ需要は今後も拡大する。

 上海は、同社と上海ディーゼル、住友商事3社の合弁会社で、組立ラインの増強を図っている。2016年には現在の年間生産能力の約4倍に拡大する計画。

 また、タイは、ターボの中核部品であるカートリッジ(タービン、シャフト、コンプレッサの結合モジュール品)生産拠点で、2013年には、設備投資(約110億円)の大部分を投下し、部品加工ラインやカートリッジ組立ラインを大幅に増設した。カートリッジの年間生産能力は2倍強になり、生産したカートリッジは欧州や中国の最終組立拠点に供給する。

 米国は、昨年生産を開始した。狙いは、これまでガソリンエンジン車が多く、ターボ需要が低調だったが、CAFE規制(企業平均燃費=企業が販売した自動車全体を基準に算出した平均燃費に規制する)などの燃費規制が強まり、小型ガソリン車を中心に燃費性能改善が風雲急を告げている。

 相模原では、コアの部分、カートリッジを生産し、これをヨーロッパなどに輸送し、現地でハウジング類とアクチュエータを付けてお客様に納品している。

 日本はマザー工場役を担っている。新しい生産技術開発は日本で行い、世界に発信し、現地のマインドを吸収し、日本で調整した後、セットアップしてタイなどに送る。

「これによりお客様の近くでターボを組み立て、素早く供給する体制が整った。2017年にはグローバルでの年間1100万台生産体制を確立し、早期に乗用車用ターボの世界トップに迫る」(大迫雄志ターボ事業部ターボ開発戦略グループ長)と、勢いを増している。

高性能ターボの需要増

大迫雄志氏
大迫 雄志氏
 1987年4月三菱重工業に入社、長崎造船所特殊機械部配属、93年長崎研究所小型ガスタービン、ターボチャージャなどの研究開発、2004年相模原製作所ターボチャージャ設計課長、06年長崎研究所ターボ機械研究室長、11年横浜研究所ターボチャージャ研究の取り纏め、13年相模原製作所ターボ技術部長、16年機械・設備システムドメイン自動車部品事業部ターボ開発戦略グループ長、16年7月三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社ターボ事業部ターボ開発戦略グループ長、ターボチャージャ新製品開発、新技術開発及び開発戦略の取り纏め、現在に至る。

世界4強で95%の市場
 ターボは、先行するハネウエルにボルグワーナ、三菱重工エンジン&ターボチャージャ、IHIが追従し、4社で世界の95%前後のシェアを占める。ここに新たに自動車部品メーカーのコンチネンタル、ボッシュ.マーレが参入している。

 三菱重工エンジン&ターボチャージャの2015年生産は約700万台。今年は約900万台(130%)を目指し、2017年には1000万台、次の年は1100万台のペースで拡大を計画している。そのうち日本では追加で100万台生産できる準備も進めている。

 「地域別の比率は、欧州が多く、中国、北米が増えている。われわれは、どちらかというとガソリン車が得意で、2017年にはシェア24~25%を見込む」(大迫氏)。

 強みは、三菱重工業グループの総合力をバックに持っていること。言わずもがな、同社グループは、電力を作り出す発電システムの心臓部のエンジンはじめ、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、ガスタービン、航空機エンジン、コンプレッサ、製鉄機械、工作機械などを製造する。ここから生み出される技術の波及効果は高く、ターボチャージャ技術に繋がる。

 例えば、世界最高効率を達成する「新コンセプトターボチャージャ」やガソリンエンジンの一層のダウンサイジングに対応した「電動式二段構造システム」(電動2ステージターボ)などの次世代ターボを開発したのもグループ会社の結集の成果の一つ。

弛まぬ加工技術研究

工具寿命伸ばし、段取り減らす

ターボ生産ライン 
 同社の第3工場では、ターボの切削.研削加工と組立現場を取材した。

 主に3つの部品を切削.研削.検査し組み立てる。①タービンロータシャフト(エンジンの排気ガスを受けて回る回転翼と軸部)、②コンプレッサホイール(タービンロータへ同軸に取り付けるエンジンへ空気密度を高め押し込む事で燃焼効率を上げる役割の回転翼)、それと③ベアリングハウジング(タービンロータとコンプレッサホイールの回転を支える軸を支える軸受)。

 タービンロータは、「20万回転以上で回る。この3つの部品と小部品類からカートリッジというコアユニットを作り、最終的には両サイドにハウジング類を組み付けターボが完成する。ハウジングやカートリッジの小物部品は取引先から調達する。われわれは、バランス加工組立技術を重視し、3つの部品を主に生産している」(佐藤昌浩製造部主席技師)。

 ターボチャージャは、TD015クラス(翼小径:15㎜)の小さいものからTD24(同240㎜)のものまであり、乗用車は、TDO15〜TD04クラス。TD05〜08クラスはトラックの小型から中型。大型のTD09まで生産する。それ以上は、産業用発電エンジンなどに使われる。

「第3工場は乗用車クラスのターボチャージャを量産している。トラッククラスは、グループ会社で生産し、大きいものの一部は第2工場で作っている。三菱重工グループで生産するターボの98%は乗用車、商用車用途である。最近は、ガソリンエンジンのダウンサイジング化が進み、ガソリン向けが拡大している」(佐藤氏)。

タービンロータライン
 タービンロータはロストワックスで成形し、削り、研削する。

 タービンロータの加工ラインは、全長50m、約25台の切削.研削工作機械、バランシングマシンが並び、自動搬送装置出つなぎ全自動運転を行っている。先ず、タービン翼(インコネル材)とシャフトを自動搬送ローダで組み付け、タービン翼とシャフトは異なる材料を真空溶接し、溶接部分の不具合(ピンホールなど)や引張硬度を確認することできちんと溶接されているかどうかもチェックする。「20万回転以上で回転するため、軸受部の摩耗対策も必要で、焼き入れ焼き戻し工程や性能に影響する翼部分研削作業など加工工程が多い」(佐藤氏)。また、バランス工程では、「20万回転以上で回転する際に異常振動が発生しないようにバランス修正加工をする」(同)。さらに、念には念を入れ各工程では、一つひとつ丁寧に修正する。「一気に削るのでなく、だんだんと少しずつ削ることでバランスの取れた羽根に仕上げる」と佐藤氏。

 コンプレッサ翼は、鋳物で作られており、旋盤で表裏の加工を行い、バランス取りをする。また、近年は、コンプレッサ翼の削り出しを5軸加工機で行う。CAD/CAMの発達で加工がしやすくなり、5軸加工を増やしている。

山田鉄也氏
山田 鉄也氏
 1982年4月三菱重工業株式会社入社、相模原製作所製造部配属、2007年オランダMHI Equipment Europe B.V.ターボチャージャ製造部長、11年上海菱重増圧器有限公司ターボチャージャ製造・品質総監、16年4月機械・設備システムドメイン製造・調達総括部 相模原製造部生産技術課新技術開発T主席技師、16年7月三菱重工エンジン・ターボチャージャ株式会社製造部生産技術課主席技師、海外拠点を含めた生産技術の開発、支援に従事、現在に至る。

組立作業現場
 カートリッジ組立は、1980年初めからロボットを使い自動組み立てをを行っている。組立精度の向上と組立忘れを無くすもので、ロボット作業は、1個掴み1個次工程に回す。

 総組立は、人をメインにする。部品供給は人が行い、作業は機械が行う。外観検査では、部品が正しいところに組み込まれているかどうか、画像で20カ所を同時に見ている。ボルトの締め付けデータも保存されるようにしてあり、合格品をここから出荷する。大きな声が工場内に響く。魚河岸のセリの声に似ている。「安全.品質管理をしている」ためという。無意識で作業をするとケガをしやすいので指差呼称を行っているのだそうだ。

排出ガス規制.燃費規制の強化
 排ガス規制が強まる方向にあり、ターボが必要不可欠にある。最も厳しい欧州では、ユーロ6の規制が行われている。2014年に規制されたユーロ6のNOx(窒素酸化物)は、0.08g/km、PM(粒子状物質)は0.005g/kmと厳しい。また、2021年までにクルマのCO2排出量は、現行の130g/kmから95g/kmまで減らさなければならない。これは、日本の燃費表示換算で24km/L程度に相当する。「自動車メーカーはこのすべてに対応しなければならず、高機能、高性能ターボチャージャの要求がさらに増している」(大迫氏)。

スロアウェイが多い
 1000台の工作機械は、旋盤、研削盤、マシニングセンタなどNC工作機械が230台、専用機など各種工作機械760台で、切削工具の多くはスロアウェイを多く使っている。また、ベアリングハウジングなど鋳物を削る部分が多く、「生産量が増えれば増えるほど多くなる。その改善活動と工具費低減を行っている」(山田鉄也生産技術課主席技師)と、わが業界へのニーズをお聞きした。

 「我々は、常に進化させて行く事を心掛けている。機械メーカーには常に新しい情報を求め、その取り組みを活性化するために単純に従来の加工条件、送り条件でなく、どうやって変え、さらなる寿命を延ばして行くことをやっている。寿命が延びれば、段取り回数も減り生産性も上がる。それと同時にチップの価格というところでもワンクール作るにあたり、1個当たりのコストが安くできれば大きな効果につながる。1秒削るだけでも大きい」(山田氏)と、教えてくれた。

日本産機新聞 平成28年(2016年)7月5日号

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