2025年9月14日(日)

池松機工 5軸駆使し生産性と品質高める 【投資する半導体製造装置部品メーカー】

池松機工はこの14年で残業時間を5分の1に減らし営業利益を2倍に増やした。それにより安定して人材を採用できるようになり財務体質も改善した。原動力となったのが5軸加工と自動化による生産体制の大改革。未来を拓く技術と見極め、スキルを磨き、積極的に投資することで成長する経営体質に転換した。

高難度にシフトし利益2倍に

美咲野工場に並ぶ5軸加工機。そのほぼ全てが毎日、夜間も無人稼働する。ワークを交換し、加工し続け、稼働率が100%に近い機械もあるという。加工するのは半導体製造に使う塗布現像装置や洗浄装置などのアルミ部品。本社と合わせて月に約3000個を生産する。

5軸マシニングセンタ「mu-10000H」(オークマ)
5軸MC「MAM72-63V」(松浦機械製作所)

2024年度の年間売上高は12億円、営業利益率は15%。25年度はトランプ関税の影響もあり微増とみるが、中長期では世界で半導体製造装置の需要が拡大する中、右肩上がりで伸びると予想する。その事業を支える成長のエンジンが5軸加工だ。

とはいえ14年前(09年)まで同社に5軸加工機は無かった。「あるのは3軸機と月100時間の残業だった」(長井敏哉社長)。液晶パネル製造装置向けの仕事が余るほどあったが加工効率が悪く収益性も低い。人材がなかなか定着せず打開策を打つ必要があった。

そこで当時製造部長の長井社長が出したアイデアが5軸加工だった。日本で広く知られていないが加工を大幅に効率化できるらしい。池松康博社長(現会長)に提案すると意見が一致し1台購入した。長井社長と選任した担当者はゼロから学び約半年かけてようやく機械を動かし始めた。

その半年であることに気づいた。「5軸を駆使するカギは加工プロセスをイメージし効率や品質を高めるプログラムを作ること。例えば複数の工程を集約したり、工具交換による加工段差を無くしたり。それをできる人材を育てれば5軸はもっと活かせる」(長井社長)。

そこでプログラム作成を専門にする技術開発課(現部)を新設した。現場での業務経験がありプログラム作成に興味のある技術者を集め指導した。その成果は如実に表れた。ある部品は加工時間がそれまでの半分に。生産能力が高まり、顧客のコスト改善にも協力できた。

加工プログラム作成を担う技術開発部
技術開発部が研究に用いる5軸加工機(松浦機械製作所)

加工品質も向上した。半導体製造装置の部品が求める精度は高い。例えば真空チャンバーは深さ0・02㎜のキズで不良になる。人が段取り替えでぶつけてNGになることも。しかし5軸はワンチャッキングでワークの5面を加工できる。人為的ミスを減らし、位置決め誤差も無くせる。

5軸が活用できるとわかりその後は毎年1台5軸機を増やしていった。工場も本社に新棟を増築し、2019年には美咲野工場を新設した。さらに23年には技術開発部に研究開発のための5軸機を購入。24年は丸物の加工領域を広げるため複合加工機も導入した。

丸物の加工領域を広げるため導入した複合加工機「MULTUS U3000」(オークマ)

それに並行し付加価値の高い部品にシフトした。穴あけだけの比較的容易な加工よりも形状が複雑で公差の厳しい仕事を優先して受注した。技術開発部が高難度の部品の加工技術を追究し5軸の生産体制でQCDを実現する。それを重ねるうちに営業利益は2倍になった。

10年後業績2倍へ、来年新工場を計画

高付加価値化と生産効率化で残業も減った。5軸導入以前は月80~100時間あったが20時間以下に。年間休日も10年で20日以上増やし現在120日を超す。すると離職率も下がった。学生の工場見学やインターンシップを積極的に受け入れ、派遣講師として地元の工業高校で指導するうちに「毎年新卒採用できるようになった」(長井社長)。

いま掲げる目標が、創業50周年を迎える10年後に売上高、利益、給与を2倍にする『2倍大作戦』。そのために26年に美咲野工場に新棟建設を計画するなど生産性と品質をさらに高め医療やエネルギー関連の仕事も増やす。「世の中に無くてはならない会社でありたい。そのために優秀な全従業員とともに挑戦を続けていく」(長井社長)。

長井敏哉社長

本  社: 熊本県菊池郡大津町大津2502‐3

電  話: 096‐293‐7666

代表者: 長井敏哉社長

創  業: 1984年

従業員: 85人

日本産機新聞 2025年6月5日

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