2024年3月29日(金)

【特集】工場の労働安全を考える

安全への取り組みが従業員を守るだけでなく、製品の品質向上にもつながるということが分かった。では、実際の製造現場では安全に対してどのように考え、取り組みを進めているのだろうか。また、機械工商社・販売店はどのようにユーザーに対して安全を提案しているのか。昨年、労働安全に高い水準で取り組む企業を認定する制度「ホワイトマーク」を取得した精密測定機器メーカーのミツトヨや、労働安全衛生の啓蒙活動に力を入れる機械工具商社の山久を取材した。

PART1:メーカーの取り組み
PART2:販売店の取り組み
PART3:関連する展示会も開催
PART4:労働者の安全を守る、注目3社の製品

PART1

ミツトヨ(神奈川県川崎市) / 労働災害「ゼロ」目指す

今年5月に「安全道場」をリニューアル

精密測定機器メーカーのミツトヨ(川崎市高津区、044-813-8201)は創業から受け継がれる「良い環境、良い人間、良い技術」という理念のもと、80年以上に渡り、安全を第一優先事項としてものづくりを続けてきた。近年では労働安全衛生に関する国の認定制度の活用や、安全教育などに力を入れ、労働災害「ゼロ」の実現に向けた取り組みを進めている。

国の認定制度を活用 安全教育に力

VRによる危険体感

「創業者の言葉に『ものをつくる前に人をつくれ』とあるように、従業員の安全を守ることは、良いものづくりにつながる。当社のものづくりの根底にはこうした考えがある」。総務部の小林直子氏はこう話す。

同社では1934年に創業してから現在に至るまで従業員の安全を重視したものづくりを続けてきた。しかしその一方で、現在でも製造現場での労働災害は少ないながら発生しており、課題となっている。特に組立や仕上げ、運搬などの人手に頼る作業工程で多く、「指の挟まれや切断、台車の転倒などの他、近年では腰痛なども問題になっている」(小林氏)。

こうした中、同社では労働災害を減らす取り組みを徹底して行っている。その一つが全従業員に「安全手帳」を配布することだ。安全衛生の方針やルール、作業基準を示した「安全手帳」を作成し、各現場で必要な時にいつでも手に取って確認できるようにしている。

また、「安全衛生データベース」を構築し、毎月各拠点で開かれる安全衛生に関する会議の議事録や、実際に発生した事故事例などを全従業員で共有できるようにしている。「どんな事故でどんな対策をしたかを全社で共有することで、従業員の安全意識の向上と類似事故の再発防止に役立てることができる」(小林氏)。

最近ではこうした取り組みに加え、安全教育にも力を入れている。2017年に宇都宮事業所(栃木県宇都宮市)内に労働災害を疑似体験できる「安全道場」を設置し、今年5月にはさらなる機能強化のためにリニューアルを行った。

従来からの実機を使った、巻き込まれ体験や残圧暴れ体験などの他、労働災害再現動画の視聴やVR(仮想現実)による危険体験などのコーナーを新設。今後は「安全道場」で撮影した動画を他拠点に展開したり、社内だけでなく外部にも公開したりすることを検討しているという。

昨年にはこうした一連の取り組みなどによって、厚生労働省が定める約80の基準を満たし、従業員の安全や健康を高い水準で維持している企業として「ホワイトマーク」に認定された。今後はこの認定制度を活用し、各拠点のさらなる安全意識の向上に取り組んでいく考えだ。

「まずは今年度の労働災害件数を昨年度から半減させることが目標。そして、将来的には労働災害『ゼロ』の実現を目指していきたい」(小林氏)。

PART2

山久(滋賀県長浜市) 平山  正樹社長 / 安全はすべてに優先する

顧客の事業継続をサポート

「安全はすべてに優先する」という標語がある。顧客の工場にも大きく掲げられているという。大手製造業には、納入業者で構成する安全協力会などがあり、定期的に安全教育を実施するなど労働安全に気を配っている。

コンプライアンスの観点から大手製造業は労災防止に目を光らせており、万一、死亡災害が発生すると生産を停止せざるを得ない。ところが、中小製造業は労働安全を現場任せにするケースが多い。

山久では、労働安全衛生の啓蒙活動に取り組んでいる。「得意先の事業が継続されてこそ、自分たちも永く商売ができる」(平山正樹社長)との思いだ。

建設業の認可を取得

山久では環境改善に20年前から取り組んできたが、労働安全に本格的に取り組み始めたのは2015年。きっかけは、500万円を超える元請負工事には建設業の認可が必要なことから、機械器具設置工事業と管工事業の免許を取得したことだ。高額な工事については、4000万円を超えると特定管工事業の資格も必要なので、それも取得した。これらを取得すると、従業員や協力会社に定期的に安全教育を実施する義務があり、そんな中で、「建設業なら当たり前のことを我々は実行できてなかったことに気づいた」という。

OSHMSを導入 

そこで、自動車メーカーで労働安全衛生部長を務めた方を顧問として招き、指導を仰ぐとともに、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)を導入。全社員が、定期的に安全教育を受講し、管理職は工事立合い資格も取得した。得意先へ訪問してセミナーを開くなど啓蒙活動も開始した。現在はコロナ禍のために、リアルのセミナーはできていないが、ウェビナーやメール配信、季刊誌(山久ニュース)の発信は継続している。

専任スタッフが提案   

また、営業アソシエイトの女性2人が感染症対策商品の専任担当として、全拠点の営業マンと一緒に同行しながら、マスク、消毒液からUV殺菌まで提案してきた。今年4月からは、マスクや手袋など保護具を中心に安全対策ニーズを聞きながら提案活動を行っている。

例えば、手袋にも耐切創性など基準があることがわかった。「すでにいくつかの受注を頂いており、消耗品なので、流れ商品としても期待できる」と。

人が活動する限り労働災害の予防、リスク軽減が必要。「我々が、最高に安心な企業を目指して、ゼロ災を継続しなければならない」と強調する。

  • 本社  :滋賀県長浜市八幡中山町1202-5
  • 電話  :0749-63-6611
  • 営業拠点:滋賀県6、岐阜県1
  • 代表者 :平山正樹社長
  • 創業  :1931年
  • 従業員 :75人
  • 事業内容:機械工具販売、設置工事
PART3

緑十字展2021 10月27日から都内で、リアル、オンライン併催

安全衛生に関する機器一堂

中央労働災害防止協会は10月27日から3日間、東京都千代田区の東京国際フォーラムで「緑十字展~働く人の安心づくりフェアin東京」を開催する。リアル展だけでなく、11月30日までオンライン展も併催する。

緑十字展はあらゆる産業の労働災害防止と「安全・健康・快適」な職場づくりにつながる技術・サービスを提供する、安全衛生分野では国内最大の展示会。

10年ぶりの東京開催となる今回は530小間・130社が出展し、15000人の来場を見込む。また、初めてリアルとオンラインのハイブリッドで開催する。

リアル展では、最新の安全衛生保護具や作業環境改善機器などを展示するほか、特別企画としてエイジフレンドリー職場づくりに関係する製品を集めた「エイジフレンドリー展」や、「安全衛生保護具体験道場」を開催する。

オンライン配信では、各出展者オンラインブースにて商品情報の閲覧や出展者との情報交換ができるほか、ワールドビジネスサテライト解説キャスターの山川龍雄氏によるオンラインセミナーや日経記者による取材コラムを配信する。

入場料は無料で、専用サイトから事前登録を開始している。

PART4

労働者の安全を守る、注目3社の製品

機械や工具の販売を通じて、生産性や稼働率向上を提案するのは機械工具販売店の重要な役割だ。しかし、コロナ禍でも明らかになったように、安全な労働環境があってこそ、生産活動が成立する。だからこそ、安全な工場環境を提案するのも販売店の重要な役目だ。また、安全関連の提案は販売店にとっても、新たな商材の発掘や、保全や安全に関連する部署など、新たな提案先の開拓にもつながる可能性が高い。以降では、製造現場の安全に貢献する機器や製品を紹介する。

オークマ「内蔵ロボが安全を実現」

次世代ロボットシステム「ARMROID(アームロイド)」

「ARMROID」は導入が容易で、シャフト、フランジなど様々なワークに対応でき、誰でも簡単に操作できるロボットシステム。ロボットが機内に内蔵されているためコンパクトに設置でき、運転中も作業者との接触事故の心配が無い。

NC旋盤LB3000EXⅡや複合加工機MULTUS B250Ⅱの加工室内にビルトインした多関節ロボットが、加工中の機械加工室内で動作し、ワーク交換に加えて、ローラによるびびりの抑制、切削液・エアブローによる切粉の絡まり防止、堆積する切粉掃除を実現。1台のロボットがエンドエフェクタの交換で様々な加工をサポートする。

ロボットの動作プログラムは対話形式で簡単に作成できるので、導入時、導入後の変更にシステムインテグレータは不要。

象印チェンブロック「安全・安心・効率向上」

軽レールクレーン

現場に合わせて組み合わせたり、後付けすることができる手押式自在クレーン「軽レールクレーン」は、電気チェーンブロックと組み合わせて、曲線的な動きや3次元の動きも思いのままなめらかに操作できる。

女性にも楽に安全に操作でき、組立作業や治具交換、型合わせ等々、吊り荷の作業性・効率を更に向上したい現場に最適。

高強度熱処理チェーンの専門メーカーとして提供する多彩なチェーンブロックから最適な電気チェーンブロックを選択。

ダイレクトハンドシリーズ「スライドグリップタイプ」を電気チェーンブロックに採用すれば、親指で可動グリップを上下させるだけの片手操作が可能。シンプルでダイレクトな操作感により作業性を向上させる。ボリューム式の速度調整つまみが付いており、作業に合わせた速度設定も可能。

ハタヤリミテッド「災害時など複数充電可」

USBポート付コードリール

災害時や工事現場、イベントなどコンセントが不足するシーンにおいて、モバイル機器の充電にコンセントが使用されると、照明機器など他の必要な100V機器が使用できないケースが多々ある。

同製品は100Vコンセントを使用しながら、スマートフォンやタブレットなどを同時に充電できるUSBポートを搭載しており、モバイル機器の複数充電に加え、照明器具など他の100V機器の同時使用も可能で、電源元が少なる工事現場やイベント、災害時の避難場所などで活躍できる。

さらに、一般社団法人防災安全協会から「防災製品等推奨品」にも認定。災害時における必要性、安全性、機能性・利便性を評価基準に、災害時に有効活用できると評価され、同社はBCP対策として提案を強化している。

日本産機新聞 2021年9月20日

[ インタビュー ][ 日本産機新聞 ][ 特集 ][ 製品 ] カテゴリの関連記事

【連載企画:イノフィス、次なる戦略②】折原  大吾社長インタビュー
作業や業界に特化した製品開発

イノフィス(東京都新宿区)は今年8月、腰補助用装着型アシストスーツ「マッスルスーツ」の新しいモデル「GS-BACK」を発売した。既存モデルの「Every」に比べ、軽量で動きやすく、これまで以上に幅広い現場での活用が期待さ […]

TONE 本社を河内長野工場に移転

TONEは、本社を同社最大拠点である河内長野工場に統合、移転した。9月26日から業務を開始した。 今回の統合により、開発、製造、営業企画、品質保証、管理の各部門と経営を一体化。部門間のコミュニケーション向上を図り、一層綿 […]

エヌティーツール 福岡県筑紫野市に九州事務所を開設

ツーリングメーカーのエヌティーツール(愛知県高浜市、0566-54-0101)は福岡県筑紫野市に九州事務所を開設し、九州地域での迅速かつ細やかなサービスを提供することで顧客の課題解決に応えていく。住所は福岡県筑紫野市原田 […]

トピックス

関連サイト