2024年12月11日(水)

次世代の自動車産業はどう変わる?
東京大学生産技術研究所 次世代モビリティ研究センター
シニア研究員 田中 敏久氏に聞く

ピラミッドから水平型の構造に

発想の転換、意識改革が必要

 電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、自動運転車―。次世代自動車の登場によって、自動車産業は今、100年に一度の変革期にあると言われている。世界的に移行が進みつつあるEVでは、既存のガソリン車に比べ、約1万点の部品が減ると言われており、サプライヤに与える影響は大きい。また、今までとは異なる自動車づくりが求められることで、日本の自動車産業の構造自体も変化しようとしている。東京大学生産技術研究所次世代モビリティ研究センターの田中敏久シニア研究員に、次世代の自動車産業がどう変化していくのか、その方向性について聞いた。


東京大学生産技術研究所
次世代モビリティ研究センター シニア研究員 田中 敏久氏

田中敏久氏

 1966年にトヨタ自動車に入社し、元町工場、購買部、車輌部などを経て、2002年にはカーナビのデジタルマップを手掛けるトヨタマップマスターの社長に就任。また、その間にITSJapanの専務理事や北九州市役所自動車産業担当のほか、東京大学客員教授なども務めた。最近では、東日本震災復興プロジェクトに参画し、復興支援に尽力した。


ーEVへの移行が進んでいますが、自動車の部品業界にはどんな影響がありますか。
 「EVでは約3万点ある部品のうち、約1万点が減ると言われている。エンジン関連の部品を中心に、スターターなどの電装品や、トランスミッションなどの駆動部品などが不要になるだろう。それらを手掛ける部品メーカーへの影響は大きいはずだ。逆に電子部品や電池部品などは増えるだろう」。

ー素形材での影響は。
 「鋳造、鍛造品などの素形材産業への影響も大きい。素形材は取引先の約7割が自動車。部品点数が少なくなれば、その分だけ需要は減る。また、工作機械業界への影響も小さくない。エンジン工場では工作機械を何十台と並べて加工している。エンジンが不要になれば工作機械の需要が減る可能性は十分考えられる」。

 「ただ、全てがEVになるかというとそうではない。FCVやプラグインハイブリッド(PHV)など他の次世代自動車の開発も進んでいることに加え、性能を極限まで高めEVなどに匹敵するような環境性能のガソリンエンジンも登場している。ある調査会社によれば、2030年でも従来のガソリン車は全体の半分以上を占め、EVは10%にも満たないという。徐々に変化していくことは間違いないが、今すぐに既存の仕事が無くなる訳ではない」。

ー自動車産業構造にはどういう変化があるでしょうか。
 「まずは、モジュール化が進み、サプライヤの役割分担が変わってくる。今まで自動車メーカーが組み立てていた部品の塊(例えばインパネからコンソールまでを一体化したものなど)をティア1(一次請け企業)が手掛けるようになり、今まで以上にティア1の存在感が増すだろう。モジュール化はコストダウンに加え、品質の安定化や生産の効率化などメリットは大きい。ただ、一部の企業に仕事を集約させてしまうことになるため、なかなか思うように進まない現状もある」。

 「また、EVやFCVの登場によって『すり合わせ型』から『組み合せ型』の自動車づくりが進み、従来のピラミッド型の産業構造から水平型に変わっていく。また、こういった変化によって、地方での産業集積もしやすくなり、地方活性化にもつながると期待している」。

ーどういうことでしょうか。
 「例えば、工業団地内の多くの企業で協業し、モジュール化した部品を自動車メーカーに納入するなどが挙げられる。すでに東北地方のある工業団地ではシート部分をこうした形で自動車メーカーに納めている」。

ITの活用も不可欠に

ーものづくりのIT化、デジタル化も進んでいます。
 「今はニーズが多様化し、多品種少量生産が求められている。しかも大量生産と同じコストで。それに対応するにはITの活用が不可欠だ。ドイツの『インダストリー4.0』に代表されるように、これらの技術を使っていかに生産性を上げるかが今後の課題になっている。さらに、単に製品をつくって納めるだけではなく、自社製品の稼働状況を監視し保全につなげるなど、いかに付加価値を高めたサービスを提供できるかも重要になる」。

ー軽量化も次世代の自動車づくりでは重要になっています。
 「EVにしろ、ガソリン車にしろ、燃費や航続距離の向上のために軽量化は不可欠。材料変換や小型化は間違いなく求められるだろう。材料変換では、エンジニアプラスチックや炭素繊維強化プラスチック、超高張力鋼坂など既存の材料からの置き換えが進む。欧州では主流になりつつあるホットプレスは、1.5MPa級の強度の高い鋼板を熱して樹脂のように一体で成形できるため、金型の削減や工程短縮なども図れる。今後は日本でも導入が進むかもしれない。また、小型化が進むことで、より精密な加工ができる機械や工具のニーズが増すだろう」。

ーこうした変化のなか、各企業に求められることは何ですか。
 「自動車産業は新しいステージに入っている。この先、生き残る企業になるにはイノベーションが必要だ。ただ、経済学者のシュンペーターが、『イノベーションは、旧方式から飛躍して新方式を導入すること』と言うように、必ずしも技術革新だけではない。必要なのは発想の転換と意識改革だ。根本から考え方を見直すことが次世代の自動車産業には求められていく」。

日本産機新聞 平成30年(2018年)3月20日号

[ 日本産機新聞 ][ 特集 ] カテゴリの関連記事

【連載企画:イノフィス、次なる戦略②】折原  大吾社長インタビュー
作業や業界に特化した製品開発

イノフィス(東京都新宿区)は今年8月、腰補助用装着型アシストスーツ「マッスルスーツ」の新しいモデル「GS-BACK」を発売した。既存モデルの「Every」に比べ、軽量で動きやすく、これまで以上に幅広い現場での活用が期待さ […]

TONE 本社を河内長野工場に移転

TONEは、本社を同社最大拠点である河内長野工場に統合、移転した。9月26日から業務を開始した。 今回の統合により、開発、製造、営業企画、品質保証、管理の各部門と経営を一体化。部門間のコミュニケーション向上を図り、一層綿 […]

エヌティーツール 福岡県筑紫野市に九州事務所を開設

ツーリングメーカーのエヌティーツール(愛知県高浜市、0566-54-0101)は福岡県筑紫野市に九州事務所を開設し、九州地域での迅速かつ細やかなサービスを提供することで顧客の課題解決に応えていく。住所は福岡県筑紫野市原田 […]

トピックス

関連サイト