2024年11月24日(日)

【座談会】販売店4社が語る2018 テーマ「未来を拓く戦略」
第2部 -外的変化に対応するには2-

1 【座談会】販売店4社が語る2018 テーマ「未来を拓く戦略」第1部-各社の課題と取り組み-

2 【座談会】販売店4社が語る2018 テーマ「未来を拓く戦略」第1部-各社の課題と取り組み2-

3 【座談会】販売店4社が語る2018 テーマ「未来を拓く戦略」第2部-外的変化に対応するには-

ネット販売の影響はありますか。

 和久田  当社のお客様もネットで購入していますが、購入リストを見せてくれます、すると、どんな商品を土曜日に注文したかが分かります。つまり、当社が休みの日曜に入荷している。まさに流通の速さを活かして、どうしても日曜に欲しいとか、月曜の朝1番に使いたいものに関してはネットをうまく利用しているんです。だから、価格が高くても気にならない。スピードが要求されているんです。社員によく話すのは、自社しかできないことは何かを考えようということ。ネットではできない当社独自の貢献とは何かを考えてやれば、生き残れると話しています。

どんな取り組みをしていますか。

 和久田  例えば会議で「軍手などをネットで買われた」「僕のお客様はこれとこれを買っていた」「じゃあ共通項はこれだね」って話し合うことを行っていると、お客様が土・日に注文するもののリストがそろってきます。それを当社で在庫できるなら在庫します。木曜か金曜日にお客様に「これ、要りませんか」って言ってあげると「あ、そうか。お前よくわかっとったな、もうすぐ無くなると思っていたから、在庫を持っていてくれて助かった」となれば、独自の貢献になるでしょ。

林社長
物と合わせて解決策を売るのも必要と林社長

購入リストは簡単に入手できるものですか。

 和久田  リストは入手できます。だって、フェイス トゥ フェイスで付き合っていますし、ネットで購入した箱がすぐそこに置いてあるので「見せて」って言えば「見ていいよ」ってなります。写真だって撮らせてもらえます。購入価格は全てネットで分かりますしね。それくらい顧客との信頼関係ができていれば、全部見せてもらって「こういうリストで買ったんだ」って分かれば考えますよね。価格で負けているわけではないので、もう一歩顧客に入り込める何かがあれば良いと思います。

フェイス トゥ フェイスの強みですね。

 和久田  お客様によって「これから常時使うから高くてもいいものを持ってこい」というケースもあれば、「1回しか使わないので安いので十分」ということもあります。ネットは価格だけしかみえないので価格だけで「こっちの方がいいかな」ってお客様は選択します。だから社員には「お客様がどっちを求めているのかを必ず把握してくるように」と言っています。そして実際に「君らのノウハウで、お客様の求めている方を薦めなさい」と。それから流通のスピード。日本は島国ですが2000㎞以上あるところを、1日で流通させられるのは、ネットで一番良い販売プランだと思います。今、アメリカではドローンを使ってもっとスピードを上げようとしているので、日本もいつかはドローンで届く日がくるだろうと思います。お客様のニーズはいろいろなので、そこをしっかりとみないといけませんね。

お客様をもっと知るということですね。

 和久田  そうです。お客様がネットで買うのは、簡単に言うと、1回切りしか使わないけど、どうしてもこのタイミングで欲しいとか、当社から買いたかったけれど、休みだったから買えなかったなどです。だから幡野社長が言われたように、ネット販売に勝とうなんて思わなくていいと思います。もう一つ言えるのは、餅は餅屋で、そういうところに勝とうと思ってもダメかなと思います。我々は今まで何でもできますよって風呂敷を広げてきましたが、少し風呂敷を狭くして商売した方が良いような気がします。例えば特殊品に特化するとか。当社も昔、ネットショップに出店していましたが、ロイヤリティが高くて儲かりませんでした。それで独自のドメインを立ち上げたのですが、利益率は上がった代わりに集客は10分の1くらいに減りました。どちらを選ぶかですが、結局辞めた方がいいと思いますね。

小浦社長はどうでしょう。

 小浦  とにかく、うちが何屋なのかをもう一度考え直す時だと思います。創業時に扱ったのが切削工具なので、切削工具のこのメーカーならどこにも負けないという強みをつくり、その切削工具メーカーと密に会議をしたり、お客様へ同行PRしたりしていくしかないと思います。

幡野社長
ネット販売参入で敵を知ることが大事と幡野社長

切削工具を強化するということですね。

 小浦  切削工具は祖父の代から販売しているメーカーを中心に様々なメーカーを取扱ってきました。それ以外は売らないということではなく、それを母体として増やしていきながら、他の製品も今までどおり販売強化していきたいと思います。

自社内で製作などにも取り組んでいますね。それはエンジニアリング部門ですか。

 小浦  当社に工場があるのは、父が商品を販売するだけでは将来ダメだと思って、様々なメーカーの商品を組み合わせて商品化する部署を立ち上げました。当時からネット販売の話題も出てきていたと思います。

組み合わせて商品化とは。

 小浦  簡単に言うと、コンベヤとリフターを組み合わせた製品などです。メーカーは自社製品しか販売しませんので、お客様から「このワークをこのように揚げたいんだけど、できるか」って言われた場合に、当社で全部受けてつくりましょうというニーズを取り込んでいます。最初のうちは何でもやっていたと思います。つまり、お客様の保全的なものとか、便利屋的な仕事ですね。だから、林社長の広商エンジニアリングさんの話は参考になりました。

今もエンジニアリング的なニーズは多いですか。

 林  結構多いですよ。大手企業でも工機部門を持っていて設備なんかをつくったりしていますが、ちょっとした改造などは外注している所が多いんです。

 幡野  人手不足ではありますよね。

 林  そうそう。人手不足で、そんなことまでやっていられないというお客様もいて、そういうマーケットはかなりあると思います。今まで1社に任せていたから、相見積もりを取ると「なんだ、あなたの所は安いね。こんなモノもできるの」と言われるときがあります。きっとその辺はコスト計算をしていなかったのでしょうね。しかし、需要があるからと言って、声を掛けてもらえるかどうかは営業マンの腕です。ネットでラインの付け替えなんて注文する人はいませんからね。たまたまそこに営業マンがいたら「そうか、では君の所でお願いしようとか、今度の土日にやりたいと思っているんだけれど、職人を集めてやってほしい」って話は結構ありますよ。その部門を少し大きくして、流通+αの機能を持ちたいと思っています。

和久田社長
米国の流通、ネットは参考になると語る和久田社長

エンジニアリング技術などはどこから。

 林  大手工機部門のOBに来てもらっています。検査設備も置いています。エンジニアリング部門を持っていると、物を売っているだけより物件の情報が早く入ってくるし、社員にとっても「うちは他社とは違う」というプライドにもつながると思います。もちろん技術的な勉強にもなります。あとは、社長がそこにお金を出すかどうか。生き残れるかどうかは別にして、とにかく差別化することは絶対必要だと思います。みんなが同じことをして、同じフィールドで白兵戦をやっていては勝てないですよ。

 幡野  普通にいけば、確実に利益率は下がっていきますしね。

最後に、今後の経営で何が必要だとお考えですか。

 林  電気自動車の普及は非常に重要ですが、どれくらいのスピードでどれくらい普及するかはいろいろ言われていますので、一概には分からないと思います。ドラッカーも将来を予測するのは不可能だと。結局、将来は自分でつくるしかない。我々の周りの未来くらいは自分たちでつくりましょう。小さいから方向転換は割と早いですし、変化できると思います。

 和久田  私も「変わることが当たり前の社風をつくろう」と言っています。当社は特にM&Aをやっているので、ものすごく変わりますし、社員も会社間で出向したり転籍したりしています。だけど、創業精神や経営理念をコロコロ変えると、社員が戸惑うかもしれません。

 林  不易流行という言葉がありますが、変わるべきものと、変えてはいけないものがあります。

 和久田  父に言われたのは「絶対しないといけないのは、働く社員を幸せにする」ということです。働く社員が幸せだったら、みな、働きますよ。不幸せな会社は仕事もしない。

 林  だから、信用される社長にならないといけない。

 幡野  おっしゃるとおりです。我々の業界は、長く事業をしているところが多いと思います。50年、60年、なかには100年というほかの業界ではあり得ないような会社が多いです。長いということは、必ず生き延びてきた理由があるはずです。今後、ビジネスモデルは変わると思いますが、それを2~3代目が取り違えないことが大切だと思います。先代とか創業者から引き継がれた理念なのか会社のありようなのかはわかりませんが、60年、70年とやってきた理由をきちっと理解したうえで、自分がカメレオンのように変化できれば100年企業にもなると思います。しかし、ひとつ間違えて「俺がやったんだ」という発想や、ちょっと流行に乗っかってしまう形になると、せっかくやってきた社業が全くのゼロになるということもこれからの10年で起きると思います。

小浦社長
当社の存在意義見直しと誠実な経営が大切と小浦社長

先ほど、林社長から「信用される社長」という言葉がありました。

 幡野  先に、会議で3、4時間も社員にレクチャーすると話しましたが、機械工具の話は一切しません。工具商に入りたくて入ってきた人はあまりいないでしょうし、初めから刃物を本当に売りたくて工具商をやっている人はいないわけです。社員はその会社が自分たちのために何をしてくれるか、この会社にいたらマンションも買えて子供も2人育てられるとか、親の面倒をみる、6時に帰れる、1週間休んでも怒られないなど、そういう事業環境をつくるのが我々の経営の一番大事なことであって、別にそれが工具でなくても、機械専門やセンサー会社になってもそれは構わないと思います。もっと言うと、中小零細企業は廃業も含めて、これからが一番厳しい時代に入るので、そこにとらわれないで社員を一番に考えるということが我々の規模の経営者にとって一番大事だと思います。まずは公私混同しないことですね。

 和久田  本当にそうですよ。公私混同した会社は、最後は生き残っていないですからね。

 幡野  社員は社長の事をすごくシビアにみていると思います。例えば、社長はゴルフに行くのも遊びに行くのも会社の車で行くんだよねとか。そういう所を社員に見られると信用してくれないと思います。逆に信用してもらえれば、社員が我々を助けてくれて、80年・90年・100年と工具商がたくさん残っていくことになるだろうと思います。もともと工具商は地味で堅実ですからね。

 小浦  8年間社長をやってきて思ったのは、先ほどの堅実もそうですが、人の道をそれずに、まじめにコツコツやっていくことが大切だと思います。忘れがちですが、コツコツやって積み上げていけばすごいものになっていくと思うので、それを忘れずにやっていかないといけないと思っています。社長の意識ですね。

 和久田  M&Aをやっていますが、無理な挑戦はやりません。たぶん生き残る会社は無理な借り入れもしません。

 林  ただ、リスクを全く負わないというのも、それは大きなリスクでもある。取れるリスクは取るべきですね。

 和久田  身の丈に合ったリスクをとればいいということです。また、小さくなる勇気も必要ですね。大きくどんどん膨張しているときは良いけれど、景気が急に悪くなったら、リストラも含めてあの会社は大丈夫かと思われてもいいからグッと小さくなることです。M&Aも当社がやるより他社がやる方が社員も喜ぶなら、自分の所有物だという感覚ではなく、そっちに移してあげるということも考えないといけません。もしもの時はもっと幸せになる会社に売るということも大事だと思っています。銀行が何と言おうと、社長には見栄ではなく勇気が必要です。

 林  決めないといけないときに、自分が儲けるためにやっていると思えば迷ってしまう。会社にとっても、お客様にとっても、仕入先にとっても、これはどうしてもやらないといけないというなら、勇気が出てくるのではないでしょうか。

みなさん、社員を大切にして伸ばす環境づくりを目指しておられるということですね。

 林  それは使命感だと思います。私も創業者ではなく引き継いだ者だから、会社も社員も預かっているようなものです。

 幡野  借りものですね。

 林  会社は一種の公器なので、引き継いだものを少しでも良いものにして次の世代に渡したい。それくらいはしないと職業人として何をしてきたのか分からなくなってしまいます。

本日は長時間、貴重なご意見をありがとうございました。

日本産機新聞 平成30年(2018年)1月20日号

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