2024年11月21日(木)

〜ものづくりの現場を訪ねて〜
タービン特集 松本製作所

自由自在の難削材加工

「出来ないと言わない」


「『何でもやる。出来ないとは言わない』のが会社のテーマ」―。そう話すのは、発電用ガスタービンの燃焼器部品を中心に、その他幅広く加工を行う松本製作所の松本和樹社長。その言葉通り、同社が手掛ける発電用ガスタービンの部品は「ブレード以外は何でもやってきた」(松本社長)というほど、本当に幅広い。

 サイズはφ1㎜の小物部品から、φ3000㎜までのワークに対応する。なかでも特に得意とするのが難削材加工だ。現在製造されている最高峰のガスタービンの運転温度は約1600℃。当然、こうした高温に耐えうる部品は耐熱合金などの難削材ばかり。「硬くて粘い素材をどれだけ効率よく、しかも安定的に削れるのか重要」という。

 その一例が小径の深穴加工。耐熱合金のインコネルにφ1.6㎜に70㎜の深穴を放電加工する部品。「一穴とかなら問題なくできる企業も多いと思うが、安定的に数多く生産できることが強みの一つ」という。また、大型ワークであっても、精密性も求められる。写真のワークは大型立旋盤で削ったものだが、厚みは0.13㎜と極薄に仕上げている。

 このような加工技術に加え、長年培ってきた顧客との関係性も強みの一つだ。創業は1963年。当時は船のエンジンや蒸気タービンの部品加工を手掛けていたが、68年の法人化を機に、現在の主要顧客である三菱重工高砂製作所(現三菱日立パワーシステムズ・MHPS)と取引を開始。83年には現在の主力であるガスタービンの部品を手掛けるようになった。

 その後、2004年には三菱重工高砂製作所が主体的に実施する改善活動の協力企業の4社にも選定された。一昨年にもMHPSから品質管理優良工場(写真)の指定を受けるほど、全幅の信頼を得ている。

横中ぐり盤
横中ぐり盤
 難削材を効率よく加工できる技術力、顧客との信頼関係などを武器に「ガスタービンの需要拡大という追い風に乗った」(松本社長)結果、業績も右肩上がりで成長を続けてきた。松本社長が入社した16年前は従業員20数名。それが前期は売上高約30億円、従業員110人と4倍以上にまで増加。12年には中国広東省佛山市に「佛山松和金属加工有限公司」を設立し、海外進出も果たした。

多工程一括受注目指す

 しかしアクセルは緩めるつもりはない。目下取り組むのが品質管理を中心とした生産体制の強化だ。「かつてはいい職人がいるとか、こんな設備があるからという理由で受注ができた。しかし現在は、最新設備を持っていることは当たり前。そして誰がやっても同じ品質のものづくりが求められる」(松本社長)。このため、生産設備の増強はもちろん、計測システムの充実や、航空宇宙産業品質マネジメントシステム「JISQ9100」の取得に取り組んでいる。

 こうした動きはユーザーのニーズに応えるのと同時に、将来への布石でもある。現在はガスタービン関連の部品が大半だが「産業用のガスタービンなどへも事業を拡げつつ、将来的にはジェットエンジンなどの部品も手掛けたい」という思いもあるからだ。「経営的には、いくつかの柱があったほうがリスク分散になる」。

放電加工も強みの一つ
放電加工も強みの一つ
 もちろん、ガスタービン部品のさらなる強化も図る。現在、そして将来的に向けて進めるのは「多工程一括受注」できる体制だ。部品単体での受注ではなく、材料調達、熱処理、機械加工、そして計測までトータルでのマネージメントを要求されることが増えているからだ。現在も、TIG溶接ができる設備を持っているが、工作機械の多様化や、構造部品の耐熱・耐摩耗性を高めるためのセラミックコーティング技術なども取り込む考えだ。

柔軟性ある人育てる

 管理体制の強化、機械設備の充実など人に拠らない体制づくりを進める一方、松本社長は人の重要性を強調する。「極論すれば設備はどうにでもなる。それらを活かすのは人」だからだ。そして、人づくりで重視するのは「柔軟性」だ。「新しい加工に挑戦したり、勉強したり、積極的に改善提案したり。自主性を重んじ、そうした姿勢を評価できる、四角四面じゃないラフな雰囲気が松本製作所らしさだと思う」。

 厳しい品質管理と柔軟性―。この相反する要素のバランスを取りつつ、これまで以上に多工程を一括受注できる体制づくりを進める。


会社メモ

松本 和樹社長
松本 和樹社長

本 社:兵庫県姫路市飾東町八重畑583–8
代表者:松本和樹社長
創 業:1963年
資本金:2000万円、従業員数110人(中国工場20人)
事業内容:発電用ガスタービンの部品製造


日本産機新聞 平成29年(2017年)3月25日号

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