2024年11月21日(木)

【特集】2022新春インタビュー 機械工具業界の「明日」を考える(前編)

機械工具業界を取り巻く環境は、2年以上続く新型コロナウイルスの影響をはじめ、EV化や自動運転など「100年に1度の大変革」と言われる自動車産業の変化、ネット通販や部品加工の受発注システムの台頭、SDGsやカーボンニュートラルに代表される環境対策など、ここ数年間で大きく変わり始めており、先行き不透明な状況が続いている。いつの時代も変化の波が来ると、ダーウィンの進化論にある「唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」が注目を浴びる。機械工具業界も変化の時なのか、先行きの見えない時代をどう乗り越えたら良いのか。そうした疑問に応えるべく、新春号特別企画は、愛知県機械工具商業協同組合の水谷隆彦理事長(ミズタニ機販社長)、髙田研至副理事長(井高社長)、森田乾嗣副理事長(モリタ社長)に「今後、機械工具業界に求められること」をテーマにインタビューを行い、現在の状況や自動車産業の変化、カーボンニュートラルへの対応、今後の機械工具販売店はどうすべきかなど、現在の思いを聞いた。これまでも業界はオイルショック、バブル崩壊、リーマンショックなど様々な危機を乗り越えてきた。それは「ピンチをチャンス」に変え、突き進んできたからこそ今があるのではないだろうか。

PART1:ミズタニ機販 水谷 隆彦社長「EV化は大きな変化点」
PART2:井高 髙田 研至社長「商社はつなげる役割」
PART3:モリタ 森田  乾嗣社長「こうあるべき姿はない」

PART1

ミズタニ機販 水谷 隆彦社長「EV化は大きな変化点」

ミズタニ機販 水谷  隆彦社長/愛知県機械工具商業協同組合 理事長
1956年生まれ、名古屋市出身。本社は名古屋市中区で1926年創業の老舗企業。従業員数42人。創業者から3代目で、3人とも愛機工組合理事長を歴任。機械工具から油圧、マテハン、FA、機械装置など幅広く取り扱う。2002年に環境マネジメントシステムISO14001を取得し、名古屋市エコ事業所にも認定。環境への負荷の継続的な低減を目指し、人に優しい環境作りに取り組む。スローガンは『基本に忠実に』『なせばなる、なんとかなる、なるようになる』。

現在の状況は。

コロナウイルスの影響が2年間続き、もう3年目になる。1年目はどういったウイルスで、どのような対策をすれば良いのか、どんな影響が出てくるか何も分からない状況からのスタートで課題続きだったが、少しずつ課題を乗り越え、ワクチン接種も進んだことで、感染者数も落ち着き始めた。

感染者数が抑えられたことで、経済活動も再開し、機械工具業界も回復してきている。

その実感を数値にすると。

コロナの影響で売上が半減したという企業もあると聞いている。当社も30~40%ほど落ち込んだ時期もあったが、今では状況も好転した。ただ、2019年比で見ると、そこまで回復していないのが現状だ。約10年前にリーマンショックがあったことを踏まえると、10年周期で想定外の事態が起こるようだ。予測することは難しいが、やはり各企業で不測の事態に備えた取り組みが必要だと感じている。

コロナウイルスによる感染症の影響が続いたことで、業界内で変化したことは。

1つは感染症対策と共に『働き方改革』が進展したことだと思う。当社もこの2年間で様々なことに取り組んできた。例えば、リモートワークや時差出勤・時短勤務といったフレキシブル制度の導入、社用車での車通勤、社内会議をリアルからリモートに切り替えた時期もある。

会議をリモートで行うことなど10年前には考えられなかった。リモートがビジネスの主流になるかは分からないが、新しいテクノロジーを否定する必要はなく、リアルとウエブをバランス良く使いこなせることが理想だと思う、そうした意味で、コロナ禍は改めて社内を見直し、働き方改革と向き合うきっかけになったのではないだろうか。

営業面で変化はありましたか。

顧客の現場に入れず難しい部分は出ている。機械工具販売店は顧客に情報を届けることが大きな役割で、こうした感染症の場合、いかにして商品や情報を届けていくかが課題だと思う。人対人のリアルな側面はもちろん重要だが、ネットの部分とバランスを取ることも必要になる。

愛知県は自動車産業の集積地として知られています。この2年間で電気自動車(EV車)が大きな話題となっています。

当社の顧客は直接自動車関連企業が少ないため、それほど大きな変化が出ているとは感じていないが、世の中の変化に対し、顧客にも変化が生じているのは事実。それは自動車産業に近ければ近いほどそう感じるだろう。

例えば、当社の顧客にエンジン関係に直結する部品を製造する企業がある。そこは自動車がエンジンから電気に変化すると、大きな影響を受けるため、従来の加工技術を他の分野に転用することや新たな技術の開発や新分野の開拓を進めていると聞く。そうなれば、求められる素材や加工技術も大きく変化していくだろう。

顧客の変化に販売店はどう対応すべきですか。

少なくともユーザーのニーズが生産性向上、ロボットといった自動化、多品種少量生産型にシフトしてきていると感じる。そうした顧客の変化に気づき、何を求めているのかを把握する必要がある。

顧客ニーズを正確に把握し、それにマッチした商品やメーカーの新技術を伝えていくことが我々の使命であり、強化していくことで顧客の課題解決につなげることができる。

そのためには顧客とメーカーの両方の情報を把握していなければならない。

PART2

井高 髙田 研至社長「商社はつなげる役割」

井高 髙田 研至社長/愛知県機械工具商業協同組合  副理事長
 1963年生まれ、名古屋市出身。1924年に創立し、名古屋市中区に本社を構える。従業員数は331人。国内は九州から北海道まで10拠点、海外はアメリカ、中国、タイ、ヨーロッパなどグローバルに展開。主に工作機械やFA関連、自動搬送装置、ツーリング、切削工具、空圧・油圧機器、測定機器を取り扱い、顧客のニーズに応じて新しい生産設備の導入やシステム開発などコンサルティングにも取り組んでいる。

現在の状況は。

愛知県下の景気はまだ回復途上の段階。当社も19年比で3割ほどダウンしている。19年は自動車産業も含め、設備投資がピークを迎えた。その後、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスが起こったが、大きな影響はなかった。むしろ、自動車産業の変革こそが本当の課題といえる。

自動車産業で起きている変革とは。

大きなテーマとなっているのが自動車のEV化。部品の共通化に向けたエンジンやミッション向けの設備投資がなくなり、自動車メーカーの投資内容が変化してきている。現実に日本工作機械工業会の受注状況を見ても、全体的には好調だが、自動車向けの設備は減少し、一般産業向けが増えていることからも分かる。

投資内容は何に変わってきていますか。

車載用電池やモータ、ギア関係が中心となり、切削加工関連の投資は少ない。ハイブリッド関連で少しあるが、エンジンのような規模にはならない。そうなると、我々には大きな課題が残る。エンジンが少なくなれば、同じ自動車でも内容が異なる。切削加工を大きな市場としていた販売店にとっては、違うことをしなければ生き残れない。顧客である自動車産業が何を求めるのかを把握し、新しいことに挑戦しなければならない。

新しい挑戦とは。

分かりやすいのはロボットなど自動化や省人化といったテーマだ。どの販売店もSlerを活用して取り組んでいる領域で、自動車産業に限らず、どの産業でも同様のニーズはある。また、工場内物流向けにAGVといった多種多様な自動搬送ロボットが生まれている。これらの新しいジャンルに挑戦していかないといけない。

ロボットが苦手という販売店も多いと聞きますが。

ロボットは難しいが、そこにはSlerがいる。我々に必要なのは目利き。顧客の要望を理解し、どのSlerに相談したら良いか、最適な選択を行うのが販売店の仕事だ。

さらに、センサやAIといったロボットに関連する周辺技術も大きな注目を浴びている。これらの技術を理解し、多くの情報を持って提案できれば新しい力になる。

目利きとはどういうものですか。

顧客がどういう自動化をしたいのか、どのように搬送したいのかをヒアリングし、我々自身もどう自動化させたら良いかを考える力だ。ありきたりでは顧客から飽きられてしまうので、引き出しの多さが重要。理想はエンジニアだが、商社では難しい。

エンジニアリングに近い要素を持ち、アンテナを高く掲げ、エンジニアとエンジニアをつなぎ合わせる、あるいはメーカーとメーカーを組み合わせる。そうした力を備えることだ。

組み合わせる力を持つには。

豊富な商材を扱えるのが販売店の強みであり、顧客に合った商材を提案するには現場での勉強が1番。商社の人間は経験値でバランスを取っているが、そこへ新しい情報を加えることが大切だ。当社はメーカーの勉強会にも多数参加させている。直近、顧客ニーズも変化し、これまでは「安い工具で削れば良い」だったのが、安いではなく「生産性向上につながる提案」を求める傾向にあり、応えるには知識が必要だ。

商社の大きな役割は情報提供であり、それには人材が必要。当社も人材の採用と教育に力を入れている。今こそ、チャレンジ精神を持って勉強できるかが問われている。

PART3

モリタ 森田  乾嗣社長「こうあるべき姿はない」

モリタ 森田 乾嗣社長/愛知県機械工具商業協同組合  副理事長
 1962年生まれ、名古屋市出身。会社設立は1952年で今年70周年を迎える。従業員数は105人。主に精密測定機器・試験機をはじめ、省人・省力化設備、ロボット・FA産業用機器、工場環境改善工事、チャックやコンベアなど工作機械搭載品を手掛ける。顧客密着型の提案営業を軸としながら、メルマガなどネットを活用した情報発信やマーケティング活動にも力を入れる。今期の会社テーマは『地上戦と空中戦の融合』。

現在の景況感は。

モノづくり企業は生産の前に必ず工具や設備など準備が必要になるため、直近はコロナの感染が広がると仕事が減り、収まると仕事が増える傾向だ。当社の他社にない特色は測定機器や分析機器などを主に顧客の研究開発部門へ販売していること。開発部門では「3~5年後の予算で買おう」といった話が多く、通常受注するのに時間がかかるものだが、コロナ前は電動化や燃料電池の開発が盛んで、短期間での受注に結び付いていた。それがコロナ禍で、設備投資に遅れが生じており、現在もコロナ前の勢いには戻っていない。我々としてはコロナが収束すると顧客の投資意欲が戻ってくると考えられるので今後に期待している。

顧客の設備投資はまだ先の話でしょうか。

当社のもう1つの主力であるチャックやチップコンベアなど工作機械向けの搭載品や周辺機器分野は、機械受注全体が伸びてきたことで当社の受注も伸びている。ただ、国内の自動車産業向けの投資がそれほど伸びていない。本来、機械受注が伸びれば、自動車関係も忙しくなるはずだが、半導体不足の影響が響き、先行きに対する不透明感が漂い、19年比で見ても2割ほど落ちている。そこへEV化の波が来た。

EV化の影響は。

ものすごく影響はある。大手自動車部品メーカーでも世界戦略に急ブレーキがかかり、EV化に対する準備が整っていない。様々な自動車部品メーカーで部門統合の話が出てきており、変化が起きている。さらに、コロナ禍でユーザーの現状や次の投資情報が掴みにくくなったのも事実だ。電動化に関する開発は進んでいるものの、まだ生産現場までは波及しておらず、コロナ禍が続けば、実用化も先送りになるかもしれない。

自動車産業はどう変化していますか。

サプライヤー各社も明確な答えは出ていないと思っている。エンジン関連などEV化で難しくなる部品もあるが、それに対し、従来技術を他分野に転用や新技術開発など次のステップへ活かそうという取り組みはすでに始まっている。ただ、試行錯誤の段階なので、どんな内容なのか、成功するかなど先の見通しは分かっていない。そうした中で、我々に何ができるのかが今後問われる。

顧客も将来が見えない中で、販売店に出来ることは。

当社はこれまで顧客密着型商社として、顧客の課題解決につながる商品を提案し、解決することをテーマに歩んできた。それは顧客が生産しているものが分かっていて、こうした商品が必要になると考えて提案している。病院でいうと看護師のような役割で、常に顧客のそばにいて、必要なものを処方する役割だったが、これからは顧客もどういった部品を作るのか、方向性が定まっていないとしたら、我々も提案が難しくなる。従来の方法が通用しなくなってくる可能性がある。

変化の必要な時期。

商社とはこうあるべきという姿はないものと思っている。以前だと、インターネットが普及した時、大型ホームセンターができた時、ネット通販が台頭してきた時も業界内で危機感が募ったが、今でも機械工具商社は立派に存在している。それは顧客が変化するたびに、少しずつ我々も変化し、対応してきたからだ。

顧客から「こういった商品がほしい」というニーズに対して、「当社では取り扱っていません」ではなく、「はい、探してきます」と応えることが重要。商社も自然と変化していくのが本来のあるべき姿ではないかと思っている。

※後編は日本産機新聞1月20日号に掲載

日本産機新聞 2022年1月5日

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