2021年9月25日(土)

航空機産業の生産工場を訪ねて
IHI相馬事業所

国内最大のエンジン工場

1gでも軽くする改善

 IHI相馬事業所は様変わりしていた。工場も陣容も一段と拡大していた。1998年に航空宇宙事業本部の4番目の生産拠点として第1工場と関連会社のIHIキャスティングス(精密鋳造メーカー)を開設した相馬は、以降、2002年に第1工場第2加工棟(防衛省向け翼部品の専門工場)、2006年に東京・田無(現・西東京市)にあった工場を閉鎖し、相馬第2工場を開設した。

 初めて訪問した2007年5月は、まさに東京・田無にあった設備機械を第1工場第1加工棟/第2工場第3加工棟に収め、稼働を始めたところだった。そして、2008年、ディスク系部品の専門工場として第1工場第2加工棟/第2工場第4加工棟を開設し、計5棟の航空機エンジン集積地にした。その全容(写真1)は、案内をしてもらった事業所近くの丘から望んだ時、言葉がでなかった。白亜の洒落た工場群が丘一面に広がり、「凄い!」と、一言に過ぎなかった。

 東日本大震災の被害を受けた相馬の姿は、もはやそこになく、さらなる生産能力の拡大と人づくりをしていた。フル生産の相馬事業所を3月上旬、駆け足で回った。

P1.IHI相馬事業所。_R
▲写真1

「匠道場」の人材育成

1500人強の人が働く

 相馬事業所は毎年、設備も陣容も拡大している。陣容は毎年二○~三○人の人が採用され、現在1800人の規模になっている。
「年率二○%前後伸びている」とは、航空宇宙事業本部生産センター副所長で、相馬事業所長の須貝俊二氏。

P2.相馬第2工場第2加工棟。_R
▲写真2

第2工場第3加工棟
 写真2は、第2工場第3加工棟の工場内を俯瞰したもの。須貝事業所長のインタビュー記事にも書いたように、手前から奥までの距離は300m。5軸マシニングセンタはじめNC旋盤、NC研削盤、歯車加工機、放電加工機、電解加工機など700台強の工作機械・装置が粛々と並ぶ。

 最新鋭のこの工場は、電気やガス、水の排水・配管をハリに沿って配置し、工作機械など各種設備機械に供給する仕組みとなっている。

 このため、フル生産をしていても、以前でも同じ空気に接したが、工場内は機械に使う切削・研削油の匂いもない。工場の隅まで曇りはなく明確に一望することができる。

タービン翼をはじめ多種多様

 加工部品は、航空機エンジン部品のタービン翼以外のブレードやディスク、ブリスク、ギヤ、ケーシングなど多種多様。それを少・中量生産する。材料は、ニッケルやチタン、コバルトと言った難削材で、加工ノウハウを聞くと、「設備機械と専用治具で飯を食わせてもらっている」(須貝事業所長)。その治具は、専用治具工場から、工場内を定期的に巡回する専用カーで、指示に従って運び込まれる仕組みになっている。

 中量生産は、セル方式を、少量の場合は、1台の機械で複合加工するワークセンター方式を取っている。

 治具は第3加工棟でも一部をやっている。「自分たちの作る治具もあれば余所でお願いをしているものもある」(須貝事業所長)。

P3.ここが凄い。_R
▲写真3

 その一角に「相馬2工場は、ここが凄い!」(写真3)と、いう改善カンバンとワークがあった。

 ミソは内製工具(工具チュウニング)。CAD/CAMによる最適プログラムの作成と5軸加工機に内製工具を取り付け高速切削加工で重量低減と部品点数の削減を果たしている。須貝事業所長に「このワークを持って下さい」と、促され1つのワークを持つとずしり、と重い。その重量を想定してもう一つのワークを持つと、拍子抜けするぐらい軽い。「航空機部品は、1gでも軽く改善・改革する努力がこれ」とは須貝事業所長。

匠道場と研究発表

P4.匠道場。_R
▲写真4

 直ぐ近くに「匠道場」(写真4)があった。若手技能者を育成するために2001年に設立された技能塾。マシニングセンタや汎用旋盤、NC旋盤、放電加工機、計測機など10数台を置いて、現在は、初級から上級まで3段階に分けて技能と人材育成を行っている。先生は、工場長をトップとする8職種30人を超える指導員によって組織され、うち10人を超える「匠」が直接指導に当たることも教室の特長になっている。

 新入社員は、入社後3ヵ月間、ここでみっちり機械加工技術の基礎を学ぶ。入社時の教育では、朝早く起きる、挨拶する、学生から社会人になった人づくりや座学(製品・品質・加工技術など)、さらには自衛隊体験入隊や8職種に跨る匠基礎コースを経て、試験・発表会に合格した人は終了式に記念メダルを削り、現場に入る。新入社員の8割は地元。福島や宮城の高校、一部北海道から来ている人もいる。

 また、中・上級者向けの教育を全社展開している。一例は、トヨタウェイ(TPM、トヨタ生産システム)に習ってIPS(IHIプロダクション・システム)を実施している。仕掛かりをなくす工夫などをテーマに関連会社を含め相馬・呉・IAの各工場を年2回、計8回回り、各地で現場研修と発表会を続けている。

 「我々はこう改善しました、と、5Sやトヨタ生産方式でこれまでやれなかったことが1週間後にはできるようになったなどの発表会。あまり人前で話すことの少ない現場の人たちに、改善活動の問題点を、自分たちで解決することを身に付けてもらうもの。成果は大いに上がっている。社員には国家検定の認定を持った者、持っていない者など多様。勉強の仕方が違うので、むしろその人の人間性を見ながら持っている潜在能力を引っ張り出すことをしている」とは須貝事業所長。

素直な心、切磋琢磨

 また、「国家試験を受ける場合も会社からお金は出さない。受かれば受験料を出す。落ちたら自分の責任、という仕掛け、やる気を促している」。
メダルのところには匠道場訓があった。「素直な心で基本を学ぶこと」「切磋琢磨し技を磨くこと」「新しい技に果敢に挑戦すること」。工場で働く人は誰も3訓を学ぶ。

第1工場第1加工棟、第1工場第2加工棟
 第1工場第1加工棟は、民間小型翼部品を、第1工場第2加工棟は、防衛省の翼部品(タービンブレード)を専門に生産している。

 タービンブレードは約13機種、約60部品の少品種多量生産で、ライン生産を取っている。素材から設計、調達、管理のすべてに対応できる柔軟な生産体制を敷いており、民間機はCF34、GEnx、RRエンジンをここで70~80万作っている。

 素材は、ニッケル系。加工技術のほとんどは研削加工で行っている。

 また、第2工場第2加工棟は、治具を現場近くに置き、生産効率を上げている。理由は、エルビータなど2社のディスクしかなく、しかも大きいディスクが13種類、小さいが4種類の40アイテムしかなく、物流倉庫に保管するほどでない。

P5.ブリスク。_R
▲写真5

第2工場第4加工棟
 第2工場第4加工棟(建屋面積14000㎡)は、2008年に稼働した。需要が拡大する航空機エンジンの量産に対応するためのもので、今回初の取材となった。

 加工部品は、2011年に就航したボーイング787のGEnx向け低圧タービン部の中核部品となるディスク。工場内は、5軸マシングセンタによるBLISK(写真5)加工を、年間約300台手掛ける。材料はチタン。

物流センター
 物流センターは、2009年12月に稼働した。建屋面積約6500㎡、延床面積約7000㎡で、タービン翼年間100万枚、大型タービンディスク年間2500枚、中型タービンディスク年間2400枚など、民間ジェットエンジン部品の生産増に対応している。

 自動倉庫は、縦に14段横に12段、奥に21段の3500パレットがあって、第3加工棟で使う。「ここを100%稼働させるには、自動倉庫との連動が重要」とは須貝事業所長。

 ジャストインタイムで過不足なく工場に材料を投入し、流れ生産に対応できるほか、相馬工場から海外へ直接出荷する部品を物流センター内付属の保税蔵置場で通関し、相馬から世界へ航空エンジン部品を出荷する、なども見込まれている。

自家消費型メガソーラー

P6.メガソーラー。_R
▲写真6

 2014年、相馬事業所はメガソーラーを設置(写真6)した。「震災の後に、電力が足りなくなるという話」(須貝事業所長)があり、約1MWのメガソーラーを設置し、発電電力のすべてを事業所内で消費する運営を始めた。工場のケーブル電力の約10%を空調分に当てる。

 「売電をしていない。全部自前で消費する。つまり自分たちの契約電力を上げずに収益性を上げることを試みている」。

 例えば、蓄電池は午前8時から午後6時まで放電し、昼休みの時間帯は蓄電池に充電する。このきめ細かな電力消費の管理は、受電電力のピークカットに活用されている。

 相馬事業所の空き地は、残り少ない。今年は、その空き地に新棟建設の計画が持ち上がっている。止まることなく、相馬は今も胎動し続けている。


■相馬第1工場の概要
 ジェットエンジン・ガスタービンの翼部 品製造、修理
 敷地面積:約159,000㎡
 建屋面積:約 37,700㎡
 従業員数:568人(関連会社含む) 
製品種類:約13機種、約60部品
 生産タイプ:少品種多量生産
 主な設備:研磨、溶接、EDM/ECM、熱処理など
(第1棟)
  民間小型翼部品(CFRP翼)専門工場
(第2棟)
  防衛省翼部品の専門工場

■相馬第2工場の概要
 ジェットエンジン・ガスタービンの中小型部品製造
 敷地面積:約167,300㎡
 建物面積:約 54,200㎡
 従業員数:698人(関連会社含む)
 製品種類:約18機種、約3,500部品
 生産タイプ:多様生産(多品種少量生産)
 主要設備:5軸MC、プラズマスプレー、EBWなど
 (第3棟)
  生産技術開発と防衛省工事中心の多品種工場
 (第4棟)
  民間DISK系部品の専門工場(BLISK)

●IHIキャスティングスの概要
 ジェットエンジンのタービン翼精鋳工場
 敷地面積:約15,281㎡
 従業員数:247人(関連会社含む)
 製品種類:約20機種、約400部品
 生産タイプ:多品種中量生産
 主要設備:WAX射出成形機、造型装置、真空溶解炉、真空熱処理炉など


日本産機新聞 平成27年(2015年)3月25日号

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