2024年4月20日(土)

特別対談 「生産財の物流・システム最前線」②

中山 哲也社長(トラスコ中山✖️奥山 淑英社長(サンコーインダストリー

 機械工具業界でも物流やITシステムを活かした様々なサービスの提供が重要になっている。ねじのサンコーインダストリーと機械工具全般を扱うトラスコ中山は、取扱商品は異なるものの業界でも屈指の「物流・IT巧者」だ。サンコーインダストリーの奥山淑英社長とトラスコ中山の中山哲也社長に、現在の取り組みや、物流・ITシステムの進化により提供できるサービスについて語ってもらった。

利便性向上に終わりなし

AI活用・需要予測・データ分析

–前回の記事はこちら–

見積もりを早めるか、無くすか 

 司会 奥山社長は常々、物流だけでなくプラスアルファが重要だと言われますが、トラスコ中山さんはAIなどの活用で色んなプラスアルファを進めていますよね。

トラスコ中山最大の物流拠点プラネット埼玉

 中山 AIを使った見積もりの自動化は一つですね。実は見積もり後の受注率は3割台しかありませんでした。一日約5万件の見積もりがあって、受注率がたった3割。受注率が低い原因の一つが回答スピードでした。実際にそう話すお客様もいました。だとしたら必要なのは「瞬間見積もり」です。今までは大半が社員による手動回答でしたが、AIを活用して見積依頼が来たら即返信できるように基幹システムを更改しました。

 司会 奥山社長はどう考えますか。

サンコーインダストリーの東大阪物流センター

 奥山 「見積もりって何か」ということですよね。見積もりに求められるのは、極論「価格」、「納期」、「どこにあるか」だと思うんです。これを示しているにもかかわらず、見積もりが発生するのは「安くして」しかない。となると、表示価格が適正ではない可能性がある。表示通りで発注して頂ける価格を出せばいい。安くするのでなく、適正な価格に見直すということです。適正価格を出して、見積もりそのものを減らしていこうと考えており、最適価格を分析しているところです。

リードタイムの短縮方法預託や需要予測

 司会 納期短縮もサービス強化の一つだと思いますが、トラスコ中山さんは置き薬のようなサービス「MROストッカー」も始められています。

 中山 ユーザー様の工場内に棚を置かせて頂き、使った分だけ伝票を出させてもらう、置き薬ならぬ「置き工具」のようなサービスです。ユーザー様にとっての最大の利便性は即納です。販売店様にとっても「すぐ持って来て欲しい」と急に呼ばれる回数が減らせるのではないかと思っています。

 司会 奥山社長が納期短縮で取り組まれていることはありますか。 

 奥山「MROストッカー」のような預託が最もリードタイムを短くできると思いますが、違う形で取り組んでいます。

 中山 どんなことですか。

 奥山 商売の全ては注文を頂いてから動き出しますが、注文を頂く前に動けることはないのかと考えたんです。簡単に言えば需要予測ですね。お客様ごとの過去の受注データを分析し「そろそろ発注があるのでは」という商品をリストアップしています。営業がそのリストをお客様に持参して、提案する資料として使っています。4割~5割の確率で当たるので、お客様も驚かれていますね。

 中山 当社は見積データを活用した研究を進めています。例えば、北海道である商品の見積もり依頼が入ったとします。北海道にその在庫を持つ企業がなくて、当社の北海道に在庫があれば注文が来る確率は高まります。見積もりを頂いた段階で、必要な商品を必要な拠点に移動させるということを考えています。

物流機器への対応策   

 司会 人手不足や出荷個数の増大で物流危機が叫ばれており、多くの企業で受注締め切り時間を早めなければならないなどの話を聞きます。

 奥山 トラスコ中山さんはこれだけの物量があるにもかかわらず、5時半の受注締め切りの当日出荷はすごいと思いました。我々も工夫して、5時半まで対応できるようにしているところです。

 司会 どうしたのですか。

 奥山 1日に1社のお客様から何度も注文を頂くのですが、最後の注文を受けてから商品を集めて荷合わせするのが理想です。そうすると、出荷作業が後ろ倒しになってしまいます。そこでお客様ごとの最終オーダー時間を算出できれば前倒しできるのではと考えました。データを分析してみると、お客さんのラストオーダー時間って大体決まっているんですね。A社は15時、B社は16時というように、お客様ごとのラストオーダー時間を決めました。

 司会 15時に締切り設定しているお客さんから17時に注文が来た場合はどうするのですか。

 奥山 もちろん対応します。とはいえ、想定している許容率の範囲内でほとんどラストオーダーがきます。結果的に荷渡しまでの時間は1時間以上短縮できましたし、残業も半分になりました。

 司会 サンコーインダストリーさんは過去の受注データをかなり駆使されていますね。トラスコ中山さんはいかがですか。

 中山 サンコーインダストリーさんのような過去のデータの使い方はしていないですね。というのも、仕入れ能力を高めると自動的に販売力が上がると思うからです。その中で、いかに変化の予兆を見つけるかが重要で、通常の商売の流れの中で上昇傾向にある商品を見ておけば、在庫を増やすなどの手を打てます。例えば、スポーツ用品メーカーの安全靴が売れていますが、安全靴自体が大きく伸びているわけでもない。安全靴全体では変化がなくても、スポーツ用品メーカーで見れば変化を見つけることがある。

 奥山 なるほど。商品の違いですね。我々はねじですからね。

 中山 また、お客様と個別に目標設定することは重要ですが、ゲリラ的な部分もあると思うんです。例えば、ある会社と手を握って「この数字をやりましょう」と言っても、隣の会社には意味がない。品ぞろえや在庫を増やせば広く多くのお客様に使って頂ける。そのうえで、販売実績を紐解けば、在庫の効率的な配置なども見えてくるのではないかと思っています。

物流のリスクヘッジや配送の自前化

 司会 トラスコ中山さんは多数の物流拠点をお持ちです。サンコーインダストリーさんは1拠点ですが、多拠点化は考えますか。

 奥山 商品の相関はかなり分かってきましたが、注文全てで荷合わせが必要なこともあります。多拠点化すると全拠点で、同じ在庫を持たないと荷合わせができないので正直難しい。ただ、1カ所だと出荷機能が厳しいのが悩みですね。

 司会 リスクはないですか。トラスコ中山さんは拠点が多いので分散できそうですが。

 中山 そうですね。当社はある地域で災害などがあっても、近隣のセンターから出荷できるような体制にし、リスクヘッジしています。

 奧山 リスクヘッジを考える必要はありますが、先ほど言った理由で多拠点化はまだ考えられないですね。

 中山 規模的に考える時ではないですか。

 奧山 在庫より配送の多拠点化の検討が必要だと思っています。トラスコ中山さんを見ていると配送強化の時代になってきたなと思うからです。これまで運送業者にお願いしてきましたが、物流危機を見ると自前も考える必要がある。少し遅いように思うので、工夫する必要がありますね。

 司会 トラスコ中山さんは配送の自前化もしていますがメリットは。

 中山 配送コストが固定費化するのはメリットの一つです。例えば、1カ所で数千円のものしか受け取れなくても、何十件も回るルート全体で何十万円という物量になります。そうなると収益性は高まります。それだけでなく、商品を梱包なしで届けられたり、修理品や返品を商品をお届けの際に、持ち帰りできたりもできる。業界で返品をシステムで受け付けているのは当社くらいではないかと思います。

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