2024年12月19日(木)

IHI航空宇宙事業本部
相馬事業所長 須貝 俊二氏に聞く

過去最大の4200億円

人と人を「つなぐ」生産現場

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 IHI相馬工場は、相馬市大野台の丘陵地の中核協業団地西地区にあり,県の太平洋沿岸から10㎞内陸に位置する、なだらかな丘が続く標高40mのところにあり、そこは甲子園球場が約10個スッポリ入る37万㎡の広さである。現在、白亜の5棟の工場が建つ。防衛省向け及び民間用の航空機エンジンのタービン翼を素材から加工まで一貫生産をする。

 初めて訪問した2006年当時は、2棟の工場(現・第1工場第2加工棟、第2工場第3加工棟)と関連会社のIHIキャスティングスの工場で、うち第2工場第3加工棟と呼ばれる工場の広さは、戦艦大和(全長263m、最大幅38.9m)が工場の長手方向に3隻も並ぶ巨大な広さに度肝を抜かれたが、さらに2棟が加わり計5棟の工場群となっていた。

 相馬事業所長須貝俊二氏にIHI航空機エンジン事業の近況と技術の伝統、人づくりについて聞いた(3月4日、相馬事業所第2工場第3加工棟で)。

技術の伝統、人づくり

―IHIの航空宇宙事業の近況についてお聞かせ下さい。
 「現在、航空機エンジンの主要な工場は、4つ。瑞穂、呉第2、相馬第1、相馬第2で、14年度売上高は、第3四半期見通しで4200億円を見込んでいます。これは、前年同期比3%増の過去最大の売上高で、IHI総売上高の約30%占めます。また、総従業員数はグループ全体で約2.7万人、うち航空宇宙事業本部は約3200人。全体の12%を占めます。相馬は、第1工場が約300人、第2工場が約500人の計約800人。工場単位でいえば瑞穂工場に次ぐ2番目の規模になります」。

―好調の要因は何ですか。
 「航空宇宙事業には、3本の柱があります。一つは、防衛省向け航空機エンジン・装備品、二つ目は民間航空機エンジン、三つ目は宇宙開発で、これらがすべて安定した事業基盤となっていることですが、特に近年、世界的な航空機需要の高まりにより、民間航空機エンジン事業が急成長していることが大きな要因です。これまでの円高傾向が最近は落ち着いてきていることもあります。」

―具体的には。
 「防衛省向けは、防衛省が使用するすべての戦闘機や多くの航空機に搭載するエンジンの主契約者として製造を担当し、エンジンの整備や部品修理も担当しています。さらに航空転用型ガスタービンを適用した艦艇の主機、発電機、各種艦艇搭載機器や陸自のNBC関連機器の開発・生産にも参加し、陸・海・空全域の防衛システム事業を展開しています。エンジンの製造では現在、T700、F7を、修理ではF110、F100、F3等々に取り組んでいます。また、研究開発にも参加し、防衛省の先進技術実証機用エンジン、将来戦闘機用次世代エンジンの要素研究や開発等に取り組んでいます。防衛機器では高性能20㎜機関砲のCIWSや水中音響自走標的のSPATなどを生産しています」。

3本の柱が安定成長

―民間向けは、超多忙では。
 「生産拡大が続いています。IHIは、小型、中型から大型、超大型クラスまで、世界の民間航空機エンジンの国際共同開発事業に主要パートナーとして参画し、エンジンのモジュールや部品の設計、開発、製造を行っています。全長3mを超えるエンジン用長尺シャフトを生産する呉第2工場は、世界の長尺シャフトの70%を供給するシェアを有しています」。

―現在、参画中は。
 「エアバスA320neoに搭載のIAE(インターナショナルエアロエンジンズ)のPW1100G‐JMやボンバルディアGlobal7000/8000に搭載の米GE社のPassport20、ボーイング777Xに搭載の米GE社のGE9Xなどの開発に参画をしています。弊社のシェアは、PW1100G‐JMが15%、Passport20が27%、GE9Xは未定ですが10~12%が見込まれています」。

―PW1100G‐JMは、貴社の先進技術が多く採用されているとお聞きしました。
 「ロングベストセラーV2500の後継として注目されているエンジンです。IHIが担当しているファンモジュールには、軽量複合材であるFRPが使用されています。このエンジンは、燃費をV2500に比べ約15%改善させた優れものです。

―他の生産見通しは。
 「ボーイング787に搭載のGEnxのIHIシェアは15%。また、ボンバルディアやエンブライエルのRJ(リージョナルジェット)機向け米GE社のCF34は27%、ボーイング777に搭載のGE90は9%で,皆好調 増産が続いています」。

新型機計画に参画

―三つ目の柱、宇宙開発は。
 「ロケットのH‐ⅡA/B用のターボポンプや固体ロケットブースター、2013年9月に初号機打ち上げが成功したイプシロンロケットなど、それに液化メタン(LNG)エンジン、小型衛星や衛星推進系などを開発・生産しています。国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」や小型惑星探査機「はやぶさ」の回収カプセルの開発・製造にも携わっており、得意の推進系技術を中核として、ロケットシステム、衛星、宇宙環境利用、地球帰還等の分野を網羅する総合システムメーカーとして事業に注力しているところです。
以上、この3本の柱が航空宇宙事業の屋台骨を背負い、お蔭様で事業の成長と発展を続けています」。

―少・多品種少・中・多量生産と航空機と言う安全と安心が求められる生産現場は大変だと、思います。どのようコントロールしていますか。
 「機械故障があると、計画どおりに造れなくなりますので、そうならないように作業者が毎日点検し、突発故障を防いでいます。あるいは設備課では各機械の健康診断をし、その結果に合わせてメンテナンスし、修理状況や修理部品等についての情報は他の工場とも情報を共有しています。特に代替え工程の無いオンリーワン設備については丁寧にメンテナンスを行ない止まることの無いよう細心の注意を払っています。」

―グループ経営方針2013には「つなぐ」とあります。相馬はどのようにつないでいますか。
 素材を投入してから最終検査を経てお客様に出荷されるまでの工場内のものの流れを可視化するために「天の川プロジェクト」が立ちあがりました。工場内の工程間に滞留している部品をリアルタイムに見える化をし,星座の運行のように規則正しく清々と工場内を製品が流れて行くことを願い「天の川」と命名されました。現場を一番よく知る班長さんたちが,自分の担当する部品について工場のインからアウトまでの工程を管理できるように,何時、何処で、誰が、何を、いつまでにしなければならないか,そして,計画通りに行なえているかを見ることのできる仕組みをITの力を借りて作りあげてきました。工場内では非常に多くの人達の手を渡って製品が作りあげられていきます。前工程と自工程をつなぐ。自工程と後工程をつなぐ。関係するすべての人とつながらなければ,ものを作ることはできません。「天の川プロジェクト」を通じて,工場内で働く皆さんが楽しく仕事をひとつひとつ丁寧につなげられることのできるものづくりを目指してきました。」

―具体的には。
 「天の川プロジェクト」は,現場の方の一人一人が担当する工程の作業時間やリードタイムを一つ一つ積み上げ,つないできた活動です。プロジェクトを通じ一つ一つの作業時間とリードタイムの重要性を皆が認識し,きちんと整備することで,ITが見せてくれる滞留のデータを皆が信じ,困っている工程を皆で顔を合わせて解決していくことができるようになってきました。
 「工場に限らず、隣の人とメールで話をすませているだけでは、人と人とはつながらないと思います。フェース・ツー・フェースこそ『つなぎ』の原点である、と思っています。


須貝俊二氏の主な経歴
 1982年4月 入社
 1999年4月 航空宇宙事業本部生産センター 生産企画部計画グループ課長(東京:旧 田無)
 2000年7月 同 瑞穂工場生産技術部造修グループ 課長(瑞穂)
 2004年7月 同 瑞穂工場生産技術部技術グループ 部長(瑞穂)
 2007年4月 航空宇宙事業本部生産センター 呉第2工場 製造部部長(広島:呉)
 2008年4月 同 呉第2工場 工場長(広島:呉)
 2011年4月 同 相馬第2工場 工場長(相馬)
 2014年4月 航空宇宙事業本部生産センター 副センター長兼 相馬事業所 事業所長(相馬)


日本産機新聞 平成27年(2015年)3月25日号

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