2021年5月9日(日)

常石造船 常石鉄工
造船産業特集 生産現場を訪ねて

中・大型貨物船、年産60隻

①建造中の8万トン級バルカー船。_R ②200t、150tのクレーンは休む暇もない。_R

 造船所にはロマンがある。男のにおいがする。胸を騒がせるのは、世界に広がる紺碧の海が直ぐそこにあり、150t、300tクラスのクレーンが大型建造物を運ぶ。溶接ロボットの火花やハンマー音が響く。鉄の塊を削る大型工作機械群、どれを取っても繊細なものはなく、超大型製品が生産現場を独り占めしている。広島県福山市の瀬戸内海に本社を構えるツネイシホールディングスの造船事業、常石造船と機械加工・組立の専門工場常石鉄工(福山市沼隈町常石)は、まさにその喧騒の中にあった。2014年の建造隻数は、前年比9.8%増の56隻、造船事業の2014年12月期売上高は、同2.9%増の2221億円を見込む。20数社ある日本の中・大型造船所のトップクラスに位置する。常石造船と常石鉄工の生産現場を訪ねた(11月5日)。

国内トップクラス

 8万トン級のバルカー「UNITED PRESTIGE」(船主はUnited Ocean Group)の建造が進められていた。11月末には、進水式が予定されていると言う。
 常石造船常石工場には、長さ250m×幅41.5mのジブ走行船台と同275m×同46m×深さ9mの建造ドックの2基があり、「UNITED PRESTIGE」はジブ走行船台で作業が行われていた。全長230m、巨大なその船は「東京の六本木ヒルズを横に倒した大きさ」だそうで、名称はカムサマックス・バルカー、積載重量81600メトリックトン型のばら積み貨物船。
 船尾に省エネ装置のMT‐ FASTを搭載し、燃費消費量の低減、海洋汚染を防ぐ二重構造(ダブルハル)の燃料タンク、電子制御エンジンの採用など環境に配慮した船型は、同社の最新鋭船のひとつ。
 また、船には7つの貨物倉を有し、各貨物倉の倉口にはサイドローリングタイプというハッチカバーを装備し、穀類、石炭、鉄鉱石などの積載を可能にしている。中でも鉄鉱石の高比重貨物は、カーゴホールドの隔倉ごとに積載が可能と言う木目細かな対応に応え、人気となっている。ちなみに、カムサマックス・バルカーの概要は、全長約229m×船幅32.26m×深さ20.00m、載貨重量が約81.918mt、総トン数が約43089、主機がMAN‐B&W6S60MC‐C、航海速力が約14.5ノット。日本の誇る造船技術を結集した同船は、20日後の11月25日午前10時50分、国旗掲揚・国歌吹奏、支綱御切断、餅撒きを滞りなく行い、進水式後、船主に引き渡された。なお、同船は、2005年に常石工場で1番船を竣工して以来、グループ累計で199隻目となった。

東西4キロに広がる工場群
 常石造船と常石鉄工の工場は、百島と田島、横島に抱かれた瀬戸内海と直ぐに小高い山が連なる東に鞆の浦、西に尾道に繋がる東西4キロの地に広がる。沼隈町常石の半分近くが、常石グループが占め、働く人たちは2代、3代続く協力会社を含めると、地元の大半の人がここで働いている。地域に根を下ろした産業であることが分かる。
 今年7月、常石造船は、創業から97年目を迎えた。造船・海運業を中心に事業展開するツネイシホールディング
ス(創業111年)の中核企業で、同社は国内に常石工場(本社)とフィリピン、中国の海外2工場を有している。3万トンから18万トン級のばら積み貨物船を中心にタンカーやコンテナー船、チップ船を建造する。年間約60隻は、大型船で世界6位のシェアを誇る。近年躍進が著しい造船所である。
 その常石工場が、役割の重要さを増している。ことし12月末、ツネイシグループは、国内2番目の生産拠点、香川県の多度津造船を今治造船に譲渡し、経営資源の集約とコスト競争力の強化を図る。

TESS、人気上昇中

流線型の船先で風を切る

TESSとエアロライン
 同社は近年、流線型のスタイリッシュなデザインを船の舳先(へさき)に取り入れた。中・大型船の大半は、鋭角的に尖った形状のへさきが一般的で、同社は「エアロライン」と名付けた丸みのある船首を採用した。聞くところによると、対空気・波浪低抵抗船首形状が風圧抵抗の低減に“最適”で、ただ今人気上昇中とか。
 また、この新技術と同社の従来の建造船に導入している居住区外の隈切り形状組み合わせで風圧抵抗を10%削減できると言うから凄い。
 このほど開発した6万3700トン型バルカー「TESS64エアロライン」は、新技術を搭載し、新たに開発した「TOP‐GR」 による低振動で、推進効率を高めたプロペラや船外から空気を直接取り入れ、エンジンで燃費効率を向上する「FAIS」の採用と独自の省エネ技術、電子制御エンジンを搭載し、肥大船でも抵抗の少ない船体形状は燃費性能を高め、従来のTESS 58に比べ、燃費効率を20%向上させたとしている。世界の船主が注目している背景はここにある。

重要な役割担う常石鉄工
 常石造船は、主に船舶の建造と修理を担っている。その他は、エンジンや補機(船の推進の機能を発揮させる目的に使われる機械の総称)、スクリューは専業メーカーから購入し、造船の心臓部に当る船尾構造品の製缶組立から機械加工及び主機、中間軸など軸系の艤装工事をグループ内の常石鉄工(財前正幸社長、インタビュー参照)で製造している。
 常石鉄工が重要な役割を担っているのは、舶用軸系(推進軸、中間軸、ラダーストック)など船を動かす重要部品を内製しているところにある。
 それだけでない。同社の設備機械はコスト競争力を備えている。第一、第二機械工場には約22台の超大型NC工作機械が設備されているが、その大半は専用工作機械に改造、改良されたものばかり。舶用軸系を専門に生産する高機能械に変わっている。
 例えば、NC普通旋盤。φ1520×φ1200×15ML×10Tは、2009年にNC改造した。NCピンレース(転輪経ファイ800×ベッド長さ10000)は、1996年にNCに改造した。また、超大型のNC普通旋盤(φ2600×φ1800×12ML×50)は、「工作機械メーカーの設計者とけんかをしながら造ってもらった常石スペシャルの軸加工専用機」(財前社長)であり、NC横中ぐり盤(主軸径φ130×X10500×Y3500×Z900)も特注製品である。
 また、5面加工のプラノミラー(テーブル2500×10000×加工高さ2700)は2010年にNC化した。「新品なら5、6億円するのを1億円で改造した」(財前社長)と、工作機械メーカー泣かせの人でもある。これらのNCの改造について財前社長は「熟練工の手作業を全てNCに移し変え、自動運転率を高めた」。これ以上の優れものはない。

推進・中間軸生産、日本一
 他にもある。NCラダー加工機や舵板溶接ロボットも常石特注機能になっている。
 舵穴のテーパー加工は、職人が横中ぐり盤を工夫し何時間もかけて製造していた。ところが、2003年当時の常石造船は年間20隻ぐらいしか造ってなく、対応することは出来たが、「数年後には2倍、3倍に生産量が増える」見通しになり、手作業では間に合わない。テーパー加工を自動化するために「工作機械メーカーに理屈を理解してもらい、自動化に成功した」(財前社長)。今では、斜めに精度よく削るNCラダー加工機はスクリューメーカーでも採用されている、と言う。
 また、舵溶接ロボットは、舵造りを一新した。今も多くの「ぎょう鉄」(滑らかな局面の船体を作り出す技術。鉄を撓める意味から撓鉄と言う)は、手作業が主流を占めているが、財前社長はロボットに置き換えた。
 1隻の建造には、約250枚から400枚の鋼板が用いられている。その曲げ加工は、熱するガスバーナーと冷却する水を手作業(感)で行い、その技術を腕に覚えさせるまでには15年~20年を要すると言われている。その熟練工の手作業を一つひとつプログラムに置き換えNCロボットに仕立てた。これは、先日、広島ホームテレビが、「ビジネス最前線」(写真、広島ホームテレビ提供)で紹介され、大きな反響を呼んでいる。この他、常石鉄工の生産現場では改善・改良された“優れもの”の設備が導入されており、紙数の関係からすべてをご紹介することができないことをお詫びしたい。それほど常石造船と常石鉄工の生産現場は、智恵と挑戦の“道具”がぎっしり詰まっていた。

低コスト、低燃費でヒット

4万トン型バルカー「TESS」
 1981年、ノルウェーの船主から40000トン型バルカー建造の要望に応えてから常石造船のTESSの歴史が始まった。当時のハンディバルカーの最大船形は36000トンが最大で、国内の需要調査によると、その大半が「大き過ぎる」という意見だった。同社は、船主のニーズを最優先し着工。1984年に第1号船TESS40を竣工し、TESS45、TESS52と船形を拡大。

300隻の実績

 肥大船型でありながら低コスト・低燃費、多種の積載貨物に対応するフレキシビリティ性を備えた国際市場に通用する船を建造する。英文字でTsuneishi Economical Standard Ship(TESS)。以降、同社のオリジナルばら積み貨物船として国際市場にデビュー。現在までに約300隻を超える建造実績を上げている。


■ツネイシホールディングス
本 社:広島県福山市沼隈町常石1083
代 表:伏見泰治代表取締役会長兼社長
事 業:造船、海運、環境・エネルギー、サービスの4事業。
グループ会社:30社
売上高(2013年12月期):前年比12.1%減の2,843億円、うち造船事業は同14.4%減の2,159億円(構成比72.4%)、2014年12月期売上高計画:同1.4%増の2,884億円。
グループ会社:30社、造船事業の主なグループ会社は常石造船、常石鉄工、常石商事、常石エンジニアリング、多度津造船(14年12月末譲渡)、TSUNEISHI HEAVY IUDUSTRIES(CE)、Inc、TSUNEISHI TECHNICAL SERVICES(PHILS.)、Inc、常石集団(舟山)造船有限公司など14社。

 常石造船
本 社:広島県福山市沼隈町常石1083
代 表:川本隆夫社長
事 業:船舶の建造、修繕
創 業:1917年7月
資本金:1億円
従業員数:約710人(2013年12月現在)
協力会社:58社(従業員数約1,000人)

 常石鉄工
本 社:広島県福山市沼隈町常石1083
代 表:財前正幸社長
事 業:船用製缶、機械加工及び艤装工事
設 立:1963年1月
資本金:1億円
従業員数:約260人(2014年12月現在)

日本産機新聞 平成26年(2014年)12月15日号

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