2017年5月28日(日)

生産現場を訪ねて
川崎重工業(西神工場)

ジェットエンジン「量産」拡大中

荒加工は協力会社、仕上げ・組立を内製

 民間航空機エンジンを製造する川崎重工業西神工場は、様変わりしていた。第四工場が竣工して間もない2013年4月に訪問した時は、まだ工場に空きスペースが見られ余裕すら感じられたが、今は250台の最新鋭の工作機械でぎっしり埋まり、フル稼働していた。過去を振り返れば、16年前の1990年3月、そこは10万㎡の広大な敷地に第一工場(1990年3月竣工、9000㎡)一棟があったに過ぎなかった。受注拡大と同時に工場を増設し、現在「主要航空機エンジン部品を月間約800台から900台」生産する。生産するのは、世界三大航空機エンジンメーカーの中の主力2社、ロールス・ロイス(RR社)とプラット・アンド・ホイットニー(P&W社)の製品。難削材で知られるチタン、ニッケル部品を加工する。航空機エンジンの一大拠点に2月22日再訪した。

IPCモジュール、増産

Trent 1000ターボファンエンジン©Rolls-Royce plc
Trent 1000ターボファンエンジン©Rolls-Royce plc

 越山副センター長が開口一番に言った言葉が印象的だった。「3年前に比べ、工場の景色が一変していると思いますよ」。

 現在、西神工場で生産するのは、タービンケース、同ディスク、シャフト、シール、ファンケースなどのエンジン部品と中圧圧縮機モジュール(IPCモジュール)。Trent1000とTrent XWBのIPCモジュールは、400品目、約4000点の部品で構成されている。

 現在の月産台数は、RR社のTrent700の部品が10台、同1000のIPCモジュールが10台、同XWBのIPCモジュールが20~MAX35台、P&W社のPW4000の部品が3台、さらには1983年契約し、世界の空を最も多く飛ぶ五カ国共同開発(IAE)のターボファンエンジン部品が35台、PW1100G︱JMの部品が10~20台と、凄い数をこなしている。

 年間生産台数にすると約840台。2020年には、現在の50%増の1300台弱が見込まれ、2030年には「売り上げベースで現在の3倍になる」という。西神工場1ヵ所では到底製造できない需要の山が目の前にある。

Trent XWBエンジン図
Trent XWBエンジン図

 同社は、数年前から「荒加工は協力会社、仕上げと組立は内製」を実施している。

 協力会社は、現在7社。図面と不定期に技術指導者を付け増産対応をしている。「それでも生産量に対応ができなく」協力会社の輪を拡大中。

 正門を入って直ぐ左の中庭にRR社製ロッキードトライスターのエンジンや川崎製エンジンを搭載したヘリコプターが展示してある。越山副センター長から「ファンブレードの形を覚えていてください」といわれた。第一工場に入って直ぐ理解できた。トライスターエンジンのブレード(動翼)は直線で、Trent1000のファンブレードは3次元構造の複雑形状をしていた。

第一工場
 第一工場(9000㎡)は、ドラムを含む回転体ディスク、シール、シャフトの生産をする。ファンブレードは、協力会社で荒加工し、西神工場で仕上げる。

 ショット・ピーニング加工は、第一と第四工場にあった。0・3mmぐらいの鋼鉄を金属の表面に衝突させ表層部を塑性変形により加工硬化させ、圧縮残留応力し、疲れ強さの向上を図るもの。見た目は、凹凸は判らないが、虫眼鏡で見るとよく見える。艶消しにもなる。光が真っすぐに反射しない。表面が艶消しになっている。ディスクは全てショット・ピーニングを行なう。

第二工場
 最も工場の景色が変わった第二工場(9000㎡)は、Trent1000/XWBケースの一貫生産工場になっていた。2分割したケース加工と特殊工程を一手に引き受ける工場は、川崎重工業とオーエム製作所が共同開発したケース加工用専用立旋盤はじめ門形5軸MCが並ぶ。また、ロボットを多用している。ロボットは、バリ取りだけでなく、「いろんなところに採用している。明石工場を含め20台」(生産総括部西神製造部長池内洋一)を数える。

 採用の発端は、「人間の手は馬鹿にできないが、欠点は作業者にスキルの差がある。ロボットはそれがなく、品質が常に均一」と、越山副センター長。今後も採用を増やしていくとしている。ロボットは、すべて川崎重工業製。同社ロボット事業部で製造し、難しい制御を組む。同社の得意とする技術が西神工場で稼働している。

 また、ここではケース内側にプラズマ溶射機でアルミパウダーを吹き付け、内径をもう一度旋盤加工する。「効率を上げるため、ブレードの先端とケース内側の隙間はできる限り小さくしている」(越山副センター長)。飛行機エンジンにダメージを与えない工夫の加工がこんなところでも行われていた。

第三工場
 第三工場(9000㎡)は、大型ケース及びPW1100G︱JMの部品を加工している。

 明石工場にあったV2500の大型ファンケースを第三工場に移し、現在、年間400台を加工している。このため、立旋盤と5軸MCなどが多く設備されている。材料は、すべてチタン。

 このファンケースは、フロント側とリア側があり、フロント側を川崎重工業、リア側をIHI呉第2工場で機械加工、溶接し、「ここで最終の機械加工と検査を行い、弊社岐阜工場に運び、ファンケース内側にハニカムを接着し完成する」(越山氏)。

 今後は、B787、A350が、増産に入る見込みで、320neo用のPW1100G︱JMが加われば「第三工場は、増産用の設備機械を投資する。このため、ブレード加工は協力会社に移設した」(越山氏)。第三工場の景色も変わる日が近い。

第四工場
 フル稼働を始めた第四工場(10960㎡)は、西神工場初の総2階建て工場。長さ270m、横40mは、「戦艦大和」と同じ大きさを誇る。1階が機械加工、特殊工程及びサブ組立の職場で、2階がモジュール組立職場、倉庫になっている。

 1階は壮観だった。複合加工機が10台並び、新しい同時5軸MCや立旋盤、ブレードの先端を削るブレード加工専用機、自動洗浄機などが設備されている。

 ブレード加工機は、スペインダノバット製チップグラインダー。動翼の先端を加工する砥石でドライ加工する。ドライ加工のため機械内を常に20度で設定し、加工によりブレードが傷つかないようにコーティングが施されている」(池内氏)。難しいのは「ブレードが遠心力で伸びる。その一番伸びた状況で、ディスクに当たるところで削る」。日本で数台しか設備されていない。

 また、形の変わった放電加工機が設備されていた。ノズルを暖めるための穴で、猫のひっかき傷のような穴が各ブレードに9個開いている。ノズルは、水の中に漬けベーンの位置を計測(全数検査)し、定位置を認識した後、電極の位置と角度を微調整し、自動運転して加工する。電極は1・2㎜。それを一カ所ずつ開けてゆく。

 圧巻だったのは、スウェーデン、ガルバテック社製自動洗浄機。全日空の航空機エンジン工場に設備されているのを「参考にし、導入した」(池内氏)。

池内洋一生産統括部西神製造部長
池内 洋一部長
 ガスタービン・機械カンパニー、ガスタービンビジネスセンター、生産統括部 西神製造部長。2012年4月就任。入社以来約30年間、ほぼ生産技術畑一筋。ジェットエンジンの加工技術を熟知する。

 洗浄する製品は、Trent1000及びXWBのフロントベアリングハウジング(FBH)。

 川崎製のロボットを使用した自動洗浄機で、治具取り付け、プログラムを選択すれば洗浄開始から終了まで全自動で行うことができる。

 目的は、材料の加工(熱処理、機械加工、防錆処理など)に際して生じた表面の変質、汚れの付着などを除去し、清浄で活性な表面を現出させる、と現場の説明版に書かれていた。「初めて導入した。この洗浄処理の結果が後工程の仕上がりの良否を決定する」と池内氏。

 洗浄搬送装置(トランスポーター)とロボットを組合せ、タンクの中に浸かっている複雑形状部品を回転させながら洗浄(アルカリクリーナ)する。ロボットは、パイプの中にバリなどが残っていてはいけないので、高圧で吹き付け洗浄する。

 1階は、まだ空きスペースを残している。2階のモジュール組立職場は、出荷したばかりのため組立中の品物がなく、次回の取材に楽しみを残した。

 最後に2016年度の設備計画をお聞きした。それによると、明石工場を含む全体の設備投資は50億円で、うちTrent関連が半分、機械は電子ビーム溶接機など特殊機械や性能の高いMCを予定している。また、明石工場を合わせた工具消費量は年間約20億円に上るという。

 西神工場は、見違えるような工場に変わった。試運転中の工作機械や据付中を除いて、全てフル稼働にあった。2030年まで右肩上がりの生産が続くという。

日本産機新聞 平成28年(2016年)3月25日号

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