2024年4月24日(水)

【自動車産業特集】生産現場を訪ねて ジェイテクト花園工場
電動パワーステアリング市場シェア27%

新製品ラックパラレルEPS投入

RP-EPSの拡大写真
RP-EPSの拡大写真
RP-EPSのカットモデル
RP-EPSのカットモデル

 ステアリングとは、自動車の「走る」「曲がる」「止まる」といった基本機能の中で、「曲がる」を担当する役割を持ち、自動車部品の中でも性能と信頼性が重要視される保安部品の1つで、電動パワーステアリング(以下EPS)は電動モータで必要時にパワーアシスト(補助)する機構で、エンジン動力を使わず省燃費化につながるため小型車から大型車まで幅広く採用されている。大手ステアリングメーカーのジェイテクトは2016年12月、ラックパラレル電動パワーステアリング(以下RP-EPS)を新たに開発し、花園工場に専用ラインを設け、ピックアップトラックやSUVなど中大型車向けに投入するなど増産体制を構築している。これまで工場内で培ったノウハウを用いて自動化や無人化を図り生産性を上げる一方で、設備の省スペース化を進め、新たな案件に備える。世界で初めてEPSを開発した同社は、自動車産業のニーズに応え、運転者に「より楽しく、安全で、快適に舵を操れる」ステアリングを提供するために日々技術開発や改善活動に取り組んでいる。「自動車産業特集~生産現場を訪ねて~」では、花園工場のRP-EPSラインや市場拡大が見込まれるステアリング市場を紹介する。

研削加工の新技術

ステアリングの基幹工場

 東名岡崎ICから県道26号線を北進し30分ほど車を進めると、工業団地の一角に花園工場の看板が見えてくる。ステアリング事業本部の国内3つある工場の1つで、ステアリングや電動オイルポンプ、電子部品などを生産するステアリングの基幹工場だ。1990年に設立し、敷地総面積は19万3718㎡でナゴヤドームの1.37倍、建屋総面積6万6159㎡。3つの工場と開発センターで構成され、1620人の従業員が働いている(17年6月現在)。第1工場はアルミ加工をメインに、油圧ポンプ(月8万5000台)、電動オイルポンプ(月13万3000台)、ベベルギヤ(月2万1000台)を生産し、第2工場1階はラックダイレクト電動パワーステアリングRD-EPS(月1万2000台)、RP-EPS(月1万4000台)を、2階は電子制御タイプギヤ比可変ステアリングE-VGR(月5000台)、センサ(月2000台)、一体MCU(月4万3000台)、FCバルブ/減圧弁(月850台)など電子部品関係や水素自動車向けの部品を生産している。第3工場は鋳造工場で、ダイカストマシン15台設備し、アルミダイカスト部品(月64万台)を生産している。花園工場の特色は鋳造・機械加工・組立まで一貫生産できる体制を築いており、電子部品など含めて生産している工場は国内3工場の中でも花園工場のみである。

新技術の減速機構造

 EPSの基本構造は、コラム、トーションバー、トルクセンサ、モータ/ECU(電子制御ユニット)、減速機、インターミディエイトシャフト、ラック&ピニオンギヤなどの部品で構成され、機能としては、運転者がハンドルを切ると、その力がトーションバーに伝わり、それをトルクセンサが検知し、ECUでパワーアシスト量を算出しモータに伝え、モータ回転トルクが減速機で増幅し、ピニオンに伝達。ピニオン回転トルクがラック軸力(タイヤの向きを変えるための力)に変換され、快適な操舵を可能にする。

 花園工場で専用ラインを立ち上げたRP-EPSはラックアシストタイプと呼ばれるもので、タイヤに近い位置にモータ・ECUを設置することで、摩擦による動力損失を軽減できるため高い操舵性を可能にし、中~大型車向けに採用されている。

 同製品の特長は快適な操舵性を実現するために、新技術を用いた世界最小の減速機構造にある。内部は専用設計の複列アンギュラベアリング、ベルト、モータ/ECU(一体MCU)、プーリー、ボールねじで構成され、小型軽量かつ摩擦抵抗の抑制、故障時もアシスト機構を継続できるなど性能が向上。静止摩擦は従来比50%低減、15%小型化、アシスト継続率90%を達成した。

 特にボールねじ部はモータを減速しラック軸力に換える重要な役割があり、従来のボールねじ部は同一球の支持ボールを使用していたため、回転運動に対するボールの接触面ですべりが発生し、滑らかな回転が出来ない構造だったのに対し、新技術では支持ボール(大きいボール)とスペーサボール(小さいボール)を交互に配列する構造に切り替え、弾性変形を利用することでボール間接触による回転運動をスムーズに伝え、優れた静粛性、低摩擦性を発揮することで、運転者に安全で快適な運転を提供する。

製造ライン
製造ライン
ネジ研磨加工
ネジ研磨加工

高精度・高能率な研削加工

 第2工場にあるRP-EPS専用ラインは同工場内にあるラインと大きく異なる。機械加工、組立、検査ラインでの無人化や自動化を図った先進的なラインで、同じ工場内にあるRD-EPSのラインと比べ、これまで培ってきた改善活動のノウハウを取り入れており、手作業時間を50%低減したほか、設備幅も従来の2040㎜から650㎜と68%削減させた。

 注目すべきは、新技術の減速機構造を実現したボールねじの高精度なねじ研削加工。2年前から試作を繰り返し、機械設計はリニアモータ駆動や静圧スライドなどを採用した高精度ネジ研削盤を使い、加工振動をワークに伝えることなく高剛性化を図り、研削軸は荒/仕上げの2軸化で高能率化を実現。1台で荒加工から仕上げ加工を行うことで、従来1個6分費やした加工も1個2分と大幅にサイクルタイムを改善し高生産性を確立した。さらに、CBN砥石を採用したことで1日10回交換していたところ、週1回の交換にするなど、ワークの脱着以外は人の手がほとんど必要としない自動化に近づけている。

 検査工程は出来上がった製品を自動で検査する無人ライン。動作確認や正転トルク検査、負荷振動検査など全7工程あり、1工程で約40秒かけ、自動で製品搬送しながら全数検査を行っている。製品はIDで管理され、合否判定でNGが出た場合は全工程検査後に分別される仕組みだ。

 組立現場は効率化を図るために、ベアリング圧入にスペーサボール組付機を用いて、総数114個の大小ボールを交互に組み付けることができ、手間のかかる組付の自動化を図った。

 RP-EPSラインは現在1ラインで、月産1万4000台生産し、今年11月をメドに35億円を投じ2ライン目を増設することで、研削盤は1ライン4台から2ライン8台に増設するなど、18年春には月産6万台を目指す。同製品は17年2月、トヨタ技術開発賞を受賞しており、3月に発売された新型レクサスの「LC500」と「LC500h」に搭載されている。

スペーサーボール流し込み装置
スペーサーボール流し込み装置
(写真手前)無人検査ライン
(写真手前)無人検査ライン

EPS市場の拡大

 現在8機種のステアリング製品をラインナップしている同社の調べによると、2016年の油圧/電動を合わせた全ステアリング市場は8823万台、そのうちEPSは5206万台で全ステアリングの59%を占める。ジェイテクトは全ステアリングで約26%のシェアを持ち、EPS市場では約27%と高いシェアを誇り、同社のステアリング事業部売上高は2017年3月期で6382億円にのぼる。

 また、グローバル(地域別)のシェアを見ると、日本で60%、アセアン71%、インド37%、北米20%、南米31%と高いシェアを維持しており、欧州、中国の開拓も進めており、全世界の4台に1台は同社製のステアリングが搭載されている。

 EPS市場は今後も自動車の生産台数の増加により順調に伸びていくと予測されている。日本自動車工業会の発表では、14年の世界の自動車生産台数(バス・トラック含む)は約8977万台で、16年は約9497万台と14年比19%増と堅調に推移している。同社は14年の自動車のEPS化率を調べたところ約56%で、20年には約67%に達すると予測。14年から20年にかけ車両の増加台数は1500万、EPSの台数は2100万台増加すると見ており、特に北米や欧州はSUVや大型車向けのRP-EPSの採用が増えると見込まれる地域で、東南アジアなどの地域はC-EPSの採用が増えていくとし、引き続き高い世界シェア獲得を目指す。

ジェイテクト花園工場
ジェイテクト会社概要
本店所在地:大阪市中央区南船場3-5-8
名古屋本社:名古屋市中村区名駅4-7-1ミッドランドスクエア15階
大阪本社:大阪市中央区南船場3-5-8
事業内容:ステアリングシステム、軸受、駆動製品、
工作機械、電子制御機器など
資 本 金:455億9100万円
連結売上高:1兆318億3100万円(平成29年3月期)
連結従業員数:4万4528人

花園工場概要
住   所:愛知県岡崎市真福寺町字深山1-10
設   立:1990年11月
敷地総面積:19万3,718㎡
建屋総面積:6万6,159㎡
従業員数:1,620人(工場内716人)
生産品目:油圧ポンプ、電動オイルポンプ、ベベルギヤ、RD-EPS、RP-EPS、E-VGR、ITCC用ECU、MCU、各種センサー、FCバルブ・減圧弁、鋳物部品など

日本産機新聞 平成29年(2017年)7月15日号

[ 工場ルポ ][ 特集 ] カテゴリの関連記事

【Innovation!】商社のPB商品

商社のPB商品は、自社の取り扱い製品への知見やユーザーニーズに触れてきた経験、メーカーとの繋がりを生かし、様々な工夫を凝らしながら進化してきた。従来からの課題であった生産性向上や製品の品質に加え、さらに環境問題や人手不足 […]

【特集:進化する商社】PART1/ 変化に対応、自ら変革

新たな価値提供で成長 エンジニアリング、海外、物流、受発注の効率化 商品を仕入れて届けるという基本的な商品供給機能に加え、プラスアルファの価値提供の強化してきた機械工具商社。実際に、様々な機能を獲得することで、この20年 […]

【特集:JIMTOF2022】PART5/ 私はこう見る 〜全日本機械工具商連合会 坂井俊司会長〜

4年ぶりのリアル開催となる「JIMTOF2022」。出展メーカーの意気込みも例年以上で、これまで以上に多くの新技術や新製品が披露される。こうした新技術や情報は機械工具商にとって顧客提案には欠かせない要素だ。初出展する全日 […]

トピックス

関連サイト