2024年4月18日(木)

ジヤトコ 菊川 貴行常務に聞く

「世界初」の技術継続

年800万台超の生産(2020年計画)

 ジヤトコは、「世界初」の技術をつくり続けている。1997年にベルト式CVT(無段変速機)を開発して以来とどまることがない。1998年4月に開発した「電子制御5速オートマチックトランスミッション」は、3速や4速ATが主流の時代にあって、AT多段化競争の口火を切った。

 また、1997年には「2リッタークラスの金属ベルト式CVT」を開発し、現在各社が生産するトルクコンバーター付CVTの基本骨格を初めて採用し、従来の枠を超えたトランスミッションの新潮流を産み出した。その後も2年ごとに、「世界初」の製品を生み出し続けている。生産技術トップの菊川貴行常務執行役員生産技術担当にCVT開発の現況と今後をお聞きした。

ジャトコ菊川常務執行役員生産技術担当。2_R

―CVTの生産状況についてお聞かせ下さい。
 「現在、G(グローバル)№1ラインからG№10まで世界に10のラインがあります。海外の生産ライン(メキシコに2ライン、中国、タイに各1ライン)は、何れも日本で確立した技術を、各拠点に転写し現地化を進めたものです。日本と同じ形態の生産ラインで、高度に教育された現地社員が、日本と同等のCVTを生産する「方程式」を作り上げました。ちなみに、2014年の生産は世界で521万台。今年はそれを上積みし、2020年までに世界№1のATメーカーとして800から900万台の生産を目指しています」。

―CVTの変遷をお聞かせ下さい。
 「第1世代のCVTから、第2世代へと進化した時に、低トルクから高トルクまでのフルラインナップ対応を果たしました。そして、第3世代では、4種類のユニットでカバーしていたトルク帯を2種類でカバーできるように機種統合し、グローバル展開しやすくしました。
また、JEPS(JATCO Excellent Production System)という、お客様の生産ラインと同期する生産システムを日本で完成させ、グローバル展開しています。高品質で、低コスト、リードタイムが短縮された地産地消の生産システムで、世界№1のCVTづくりを目指しています」。

―強みは何処ですか。
 「生産技術の強みは5つ。
1つめは、日産自動車、ジヤトコ、三菱自動車という3社の生産ノウハウを結集していること。2つめは、企業規模が適度なので、開発と調達、試作、生産技術、製造現場といったモノづくり部門同士の距離が非常に近く、小回りが利くことです。3つめは、素形材から加工、熱処理、仕上げ、組立まで一貫生産をしていること。4つめは、1997年の新製品発売からずっとCVTの先駆者であり、広範囲のトルク帯に対応できるオンリーワンの生産技術を持っていることです。5つめは、CVTの海外展開の先駆者でもあること。世界中にCVTライン10本を持ち、海外展開の先駆者として進化を続けています。具体的には、「ジヤトコ・スタンダードライン」を構築し、それをグローバルに展開しているということです」。

―注力するところは。
 「小モジュール化とフレキシブル制の高いラインづくりです。例えば、組立ラインは、G1~G2のラインが、1本あたり30K台/月でしたがリスクが大きく、今はなるべく小さいモジュールの6000~8000台/月というラインにしています。これにより状況に応じて段階的に生産量を調整できます。また、第2世代から第3世代ユニットの過渡期における並行生産、あるいは機種ごとの要求台数変動にも柔軟に対応するため、どんな機種でも生産できるようなフレキシブルな生産ラインを実現させました」。

―機械加工も。
 「同じコンセプトです。スモールモジュール化とダウンサイジングがキーポイントです。一例ですが、もともと42K/月のトランスファーラインでやっていたものを、14K/月のFTLにしました。これが第二世代。さらに、42K台/月だった仕上げライン(ファインボーリング、洗浄機、リークテスター)は、今回から6Kぐらいの小モジュールをベースにしています。」

―具体的には。
 「MCのラインと、ファインボーリング、洗浄機、リークテスターで構成したラインは、ダウンサイジングして6000台/月のモジュールを新規開発しました。マシニングラインも40番の横型MCから30番の立形MCにし、設備同士の隙間を詰めることでラインの全長を縮めました。GNo.10では、48%のスペース削減と、生産効率を上げることに成功しています。我々は改善レベルで地道に生産ラインを改良していくことと、技術革新で一気にラインを変革していくことの両輪で、生産ラインを進化させ続けています」。

―生産設備と切削工具について。 
 「ここ第一地区では1000台の設備機械で、ユニットの特に重要な部品を生産しています。もちろんコア部品の生産は昔から内製で、このことが技術開発の競争力維持につながっています。従って、このエリアでの工作機械の役割は大きく、我々は日々勉強するとともに、将来に向かって共同開発をしていくことも始めています。是非いっしょに取り組んで行きたいと思います。切削工具は、チップからリーマ、フライス、シェービング、ホブ、ブローチ、各種砥石などほとんどの工具を使い、グローバルで年間50億円分ぐらい消費しています。関連会社のジヤトコツールで生産と再生を行なっている特殊な工具もあります。社外からの調達については、グローバル化を念頭において、日本で技術開発し、海外現地化を進めています。切削工具の果たす役割もますます重要になってきています。」。

―CVTの心臓部、プーリーの生産は。
 「全量が社内生産です。プーリーは、鍛造ラインで成形後、生加工して熱処理を加えます。ガスの充満した炉で、約900℃で数時間ほど熱し、金属の表面に炭素を浸み込ませます。以前10時間掛かっていたこの工程は、真空浸炭炉の導入によって3分の1まで短縮し、省エネにも貢献しています。次は、さらに小型の真空浸炭炉を加工ラインにインラインで入れ込むことを計画中です。
プーリーに駆動力を伝えるベルトには、従来から金属ベルトを採用しています。しかし、さらに高速での燃費を追及するためにチェーンの開発にも挑戦しました。プーリーとの接触面積が大きいベルトと比べると、チェーンは面積が小さくなりますので、逆に面積当たりの圧力は高くなります。このため、シーブ面を硬くしなければ耐久性が不足します。さらに油だまりを作ることも重要で、この2つの課題をクリアーして大量生産する技術の確立は、大変なチャレンジでしたが、ついには克服することができました。このノウハウは、われわれ生産技術部隊の宝になっています」。

―現在強化されている活動についてお聞かせ下さい。
 「①フロントローディング、②改善の水平展開と標準化③生産技術の開発です。
①フロントローディングについては、現在、GPEC(グローバル・プロダクション・エンジニア・センター)と言うエリアで、試作段階のアク出しをしています。設計試作ユニットは試作部署が生産しますが、なるべく量産のラインに似たような工程だとか、同じような条件でできるように工夫し、試作の段階で問題点を出しています。組立ラインのミニラインを作り、事前検証を行っています。
②改善の水平展開と標準化③生産技術開発ですが、G1からG10までラインを展開していく過程において、G1の問題点はG2で改善し、G2の問題点はG3で直すように、どんどんPDCAを高めています。現場から出てくる既存の問題点は、技術部が次のラインにフィードバックします。現場レベルの改善アプローチと、2020年を見据えた中期的な技術開発を同時に進めています。」

―グローバル化の人材育成について如何ですか。
 「最大の課題と認識しています。今後ジヤトコは海外での生産能力を上げていくことになります。急速に拡大する海外拠点の人材育成、特に現地の生産技術員の確保と育成は、我々の成長のキーポイントです。一例として現在、技術員を3年で一人前にする教育に力を入れています。そこで一番重要なことは、教えられる側でなく教える側の教育です。良い先輩に教わると3年で一人前になりますが、悪い先輩ですと5年、10年経ってもなかなか一人前にできません。まず、教える側(トレーナー)の教育プログラムを整え、トレーナーの認定制度を設けました。このシステムを日本だけではなく同時進行でグローバルに展開しています。将来的には海外拠点同士での、技術員の相互応援体制も視野に入れ、最重点課題として取り組んでいます」。


プロフィール

ジヤトコ常務執行役員 生産技術部門担当
1984年4月日産自動車入社、吉原工場第一工務部技術課、95年7月第一技術部第二技術課(日産本社)、98年7月栃木工場第三製造部第三車軸課長、2001年11月ジヤトコ転籍、03年4月技術統括部主管、05年4月ユニット技術部長、07年4月CVT工場長、09年4月VP昇格(ジヤトコメキシコ社出向/社長)、13年4月同社執行役員、15年4月同社常務執行役員、現在に至る。


日本産機新聞 平成27年(2015年)6月25日号

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